先日2月16日、コミュニティ「Next Marketing Platform Lab/Next Retail Lab」共催イベント生成AI 時代にはもうXXXXはいらない“が五反田の株式会社ギフティのイベントスペースで開催された。読者のみなさんの中にも参加された方がいるかもしれないが、筆者も現地で主催者として参加し、強く感じたのは、生成AI時代に企業やマーケターに必要なのは「AI」と「愛」と「アドレナリン」の3つのAであるということだ。
ここでいうAIは言うまでもなくArtificial Intelligence(人工知能)だが、同時に人や顧客への“愛”を持たないデータ活用は意味を持たず、さらに人や組織を動かし変革を起こす“アドレナリン”=挑戦のエネルギーがなければ、AIは単なる効率化ツールに終わってしまうことが露呈した。
今回のイベントでは、Knowns、Oshina、giftee for Business、Skyartsといった新規企業/サービスの取り組みから、AIを導入した企業と、AIを前提に事業やサービスを再設計した企業のとそうでない企業間に明確な差が生まれ始めていることが示されたと感じた。
本稿では、これらの事例をもとに、生成AI時代にマーケティングの前提がどのように崩れ、Unlearn/Re-learn/Co-workerという観点で組織と意思決定をどう再設計すべきかを整理していく。
Knowns・田中氏の示した「意思決定の速度が競争力になる世界」
今回のセッションの中で、生成AI時代のマーケティングの変化を象徴的に体現していたのが、株式会社Knows 代表取締役CEO 田中啓志朗氏の事例だったのではないか。
Knowns株式会社の田中社長は、生成AI時代におけるマーケティングプロセスの変化を「調査」という観点から提示した。
同氏の主張は明確である。「高額で時間のかかる従来型リサーチは構造的に不要になる」というものだ。
従来の消費者調査は、仮説立案 → 調査設計 → 配信 → 集計 → 分析
という工程を人手で行うため、費用は100万円単位、納期は1〜2か月が一般的だったという。
このプロセスはマーケティングの意思決定スピードと根本的に相容れない。
田中氏は、この構造をビジネスモデルから再設計している。
共通して必要とされる調査データを先回りして取得しサブスクリプションで提供することで、コストと時間を劇的に削減した。
さらにAIを組み合わせることで、調査設計・集計・分析・資料化までを自動化している。
重要なのは、同氏が示した役割分担である。AIが代替できるのは、仮説整理、調査設計、データ分析、示唆抽出であり、「人間にしかできないのは回答そのもの」だという点だ。
つまり、マーケターの仕事はデータを集めることからデータをどう解釈し意思決定に使うかへとシフトする。
同社のプラットフォームでは、ブランド・タレント・カテゴリなどの定点データがリアルタイムで更新され、さらにAIによって即時アンケート設計・数時間での回収・自動分析が可能になる。従来1か月かかっていたリサーチが、数時間〜数十分単位のプロセスへと短縮されるのだ。
田中氏は、AI活用の精度を左右する要素として「プロンプト」と「データ」の2点を挙げたが、差別化要因になるのは後者、すなわち独自データの保有量であると指摘した。
これは、生成AI時代の競争優位がモデルそのものではなくデータ資産に移行することを示唆している。
同氏の発言を整理すると、次の三点に集約できる。
- リサーチはプロジェクト型からインフラ型へ
- 調査は月単位から時間単位へ
- マーケターはデータ収集者から意思決定者へ
マーケティングにおける最大のボトルネックは「調査の遅さ」だった。
AIはクリエイティブやメディア運用だけでなく、意思決定の前段階そのものを高速化するのである。
これは単なる効率化ではなく、仮説検証の回転数が上がることで、組織の学習速度そのものが変わる。
田中氏の提示したモデルは、生成AI時代のマーケティングをリアルタイム意思決定型へ移行させる基盤となるだろう。
NEL(寺尾氏):インフルエンサー広告は「効く」だけでは足りない。AI時代に問われるのは“商品愛”と“発話の熱量”
NEL株式会社の寺尾氏は、冒頭からテーマを明確に置いた。今回の議題は「商品愛のないインフルエンサー広告はいらない」。そしてその背景には、SNSの運用が“便利”になればなるほど、マーケティングが逆に空洞化していく危うさがある、という問題意識がある。
「商品愛のないインフルエンサー広告というかなり尖ったテーマ」
「AIを活用してどんどん利便性が高まるっていう世の中に対して、どうしたら…より購買が促進されるようになるのか」について語った。
いま起きている違和感:広告は回っているのに、ブランドが育っていない
寺尾氏が提示した現状認識は、現場感がある。インフルエンサー投稿は増え、再生数やいいねもつき、CPAも「悪くない」。しかし、広告主の側には“別の痛み”が残る。寺尾氏はこれを、広告主のインサイトとして次のように言い切った。
「広告が回ってるんだけどブランドが育っていない」
指標上は成功しているのに、ブランドが積み上がらない。だから、施策が継続しない。担当者の腹落ちが起きない。結果として、マーケティングが“短命化”する。
なぜ起きるのか:最適化の方向が「単価」と「都合」に寄ってしまう
寺尾氏は、商品愛のない広告が増える理由を「シンプル」と言う。要因は大きく2つ:SNSが台頭し、KPIが 単価設計(フォロワー数、再生、投稿本数) に寄っていることと代理店側の都合(在庫消化型キャスティング等)で、インフルエンサーは“誰でもいい”現象が起きるのであろう。
さらに構造を強めているのが、AIレコメンドの成熟だ。ユーザーはフォローしていなくても“刺さるコンテンツ”が流れてくる。つまり、熱量のない広告でも「ボリュームがあれば当たってしまう」状態が生まれるのである。だが、当たることと、動くこと(購買・ブランド形成)は別問題だ。ここにギャップが生まれている。
企業が見ている誤解:数値指標の向こう側にある“愛用者”が抜け落ちる
寺尾氏が指摘したのは、企業が見ている指標の偏りだ。インプレッション、再生数、クリック率、CPA――これらは「消費された投稿」の指標であって、必ずしも「積み上がったブランド」の指標ではない。そこで寺尾氏が、AI時代だからこそ重要になると置いたのが、定性的だが決定的な指標である。
「愛用者の総数。この人は本当にこの商品が好きか」
“誰が言ったか”より、“どれだけの似た人が言っているか”という一人の強い声より、複数の熱量ある発話の束である。
解法:クラスター×商品愛×発話量で「関係性を作る」
寺尾氏の処方箋は、いわゆる“推し活”的な熱量の扱いを、マーケティングの設計変数として取り込むことだ。
- 興味関心で集まったコミュニティ=クラスター
- クラスター内で「適切な評価」を獲得することが重要
- 商品と相性のよいクラスターを見つけ、商品愛のあるクリエイターを起用し、発話量を設計する
そして最後に寺尾氏は、AI時代においても“AIが作れないもの”がある、と釘を刺した。それが「商品愛」だ。だからこそ、自社は“推し”とブランド、消費者をつなぐプラットフォームを運営し、「好きを起点」に設計する、と締めた。
ギフティ(小暮氏):そのギフトに愛はあるんか?——「摩擦係数」を下げ、つながりを育む設計へ
ギフトは、受取手のためのもの——。
多くの人がそう思う。しかし、株式会社ギフティの小暮氏の話は、そこに一度“待った”をかける。「受取手の便益」は当然追求するが、それだけではギフトは回らない。贈り手側が“贈れる状態”になって初めて、ギフトは社会に流通する。小暮氏は、ギフティの設計思想を「贈り手・受取手の両面最適」で語った。
「受け取る人だけでなく、ギフトを贈る人にもベネフィットを感じてもらえる、そういったようなプロダクト、サービス設計になっています」
“ギフトの本質”を再定義する:単なる贈り物ではなく「つながりの育み」
小暮氏が最初にあげたのは、ギフティがギフトを“物”としてではなく“関係性の装置”として捉えているという点だ。
「ギフトは単純にただただギフトを贈るというだけではなくて、つながりの育みこそが重要です」
この言い回しは、実務の話に聞こえつつ、実は思想の話でもある。ギフトは感謝や想いを伝える「文脈」そのもの。つまり、UXの最適化とは、単なる手続きの省略ではなく、感情の伝達を途切れさせない設計だ。
キーワードは「摩擦係数」:ギフトが止まる理由は、物理と心理の二重苦
ギフティが向き合ってきた課題を、小暮氏は一言でまとめる。
「摩擦係数を下げる、そこをとことん追求していきたい」
ここで言う摩擦は2種類ある。
- 物理的摩擦:在庫管理・配送・運用コスト
- 心理的摩擦:「何を贈ればいいか分からない」問題
特に心理的摩擦は、“関係性が遠いほど”強くなる。キャンペーンや福利厚生など、相手の好みが見えにくい局面で、贈り手は止まる。結果として「贈りたいけど贈れない」が発生する。
解法は「選んでもらう」:ギフトボックス=カタログギフトのWeb版
そこでギフティが取り組んだのは、贈り手が、受取手の好みがわからず悩む設計ではなく、受取手が自由に好きなものを選べる設計だ。小暮氏はたとえば、giftee for Businessが提供するデジタルギフトボックス「giftee Box®︎」を、カタログギフトのデジタル版のようなものだと説明した。
「結婚式等で活用されているカタログギフトのデジタル化したプロダクトをイメージしていただけると分かりやすいです」
これにより、贈り手は「相手の好み当てゲーム」から解放され、受取手は「自分の欲しいもの」に交換できる。しかも、受け取った金額分を分割して複数ギフトに交換できる点も、受取手側の利便性を増幅させる。
面白いのは、交換先のデータから「好みの多様化」が見える、という小暮氏の指摘だ。特定ブランドが突出せず、均衡している。つまり、贈り手がギフトを絞り込むほど外す時代に、受取手が選べる設計は合理性がある。
AIは「魔法」ではない:データがあって初めて“愛のある提案”になる
小暮氏は、少し意外な前置きもした。「現時点では、プロダクト提供におけるAI活用はまだ限定的だ」と。だが、その上で、AIを活用した未来像は具体的だった。ギフティの強みは多様なニーズに応える幅広いギフトコンテンツと、好みが分かれるギフト領域で蓄積してきたデータアセット。これがあると、贈り手の“次の一手”が自動化される。
「贈り手側としては、例えば何を贈ればいいのか、どのタイミングで贈ればいいのか迷うこともあるでしょう。それを、giftee for Businessが保有しているアセットとAIを掛け合わせることで、自動で提案してくれる未来もあるかもしれません」
さらに受取手側も、パーソナライズされたギフトでなお嬉しいはず。ここで重要なのは、単に好みを当てることではなく、記憶に残る“新しい体験”をつくることだ、と小暮氏は言う。
「自分では選ばないけれども、嗜好に合っているものを貰った時ってすごく嬉しいですよね。そうした嬉しさが何度も重なれば、結果として記憶に残る新しい体験になるのではないかと思います」
つまり、「好みの最適化」だけではなく、「意外性の設計」まで視野に入れている。この辺りは、AIを“効率化”ではなく“体験価値の編集”として扱う発想に近い。
まとめ:ギフトの「愛」は、気持ちではなく“摩擦を超える設計”に宿る
ギフティの話は、ギフトを情緒で語りながら、やっていることは徹底した「構造」の話だった。
- 贈り手が止まる理由を物理×心理の摩擦に分解
- 受取手が選べる仕組みで関係性の流通量を増やす
- AIは「提案」と「継続性」で価値を出す(ただしAI単体ではなく、オペレーションとラインナップ拡張が必要)
“そのギフトに愛はあるんか?”という問いは、結局こう言い換えられる。
そのギフトは、贈り手が贈れる設計になっているか。受取手が嬉しいギフト体験を得られるか。
愛は、感情の宣言ではなく、摩擦を越えてつながりを育てる設計の中に宿る——ギフティの話は、そんな示唆を残した。
Skyarts(渡辺氏):制作は「祈る仕事」から「検証する仕事」へ
筆者が今回のセッションで最も象徴的だったのは、渡辺氏自身がAIアバターで登壇したことだ。
コンテンツの内容以前に、フォーマットそのものが「生成AIが制作プロセスをどう変えるか」を体現していた。
テーマは明確で、高コスト・長時間・残業前提の制作構造からの脱却。「生成AIの時代、制作は高コスト長時間残業前提のやり方から抜け出せます」と渡辺氏はいう。
しかし、単なるコスト削減論ではない。渡辺氏は、制作費を削りすぎた場合のマーケティング的な副作用も同時に指摘する。
「クリック率が落ち、成約率も落ち、獲得単価があがる。結果、広告費が余計に溶けます」
つまり、AIは“安く作るための道具”ではなく、学習速度を上げるための装置だという前提に立っている。
「順序の逆転」:制作プロセスの主語が変わる
従来の制作フローは
企画 → 撮影 → 編集 → 出稿 → 反応確認
だった。
渡辺氏はこれが
仮説 → 試作 → 反応確認 → 伸長方向に寄せる → 本制作
へと逆転すると語る。
「安く作れることより早く試せることです」ここでの本質は、“制作物”ではなく“仮説検証ループ”が主役になることだ。1本に大金を投じて当たるのを祈る「一発勝負型制作」は、意思決定を遅らせ、修正と残業を増やす構造を内包していた。
「いらないもの」=一発勝負・後戻り・残業吸収構造
渡辺氏は、生成AI時代に不要になるものを3点に整理した。
- 一発勝負型の制作
複数案を並べ、反応で選ぶ運用へ - 撮影してから考える進行
撮影前に試作で方向性を固定 - 迷いと手戻りを残業で吸収する構造
特に3点目は、制作現場の問題を“根性論”ではなく“構造論”として捉えている点が印象的だった。
「残業の多くは前の段階で決まっていないことが原因です」
AIで叩き台を早期に可視化することで、意思決定を前倒しし、結果として品質に時間を使えるようになる、というロジックだ。
AIの役割は「量産」ではなく「テスト装置」
渡辺氏の実務的な提案は以下のようにシンプルのものであった。
- AIは量産ではなくテスト用に使う
- ブランドのOK/NGを事前定義する
- KPIは制作費削減ではなく検証回数
「制作費の削減より試す回数の目標を置く」
この発想は、広告運用におけるA/Bテストの思想をクリエイティブ制作に持ち込むものだ。
15秒試作を10本作り、上位2本を本制作に回すという例は、制作とマーケティングの分断を埋める運用モデルとして示唆的だった。
人材育成を削るな:AI時代の“守るべきコスト”
もう一つ重要だったのは、コスト削減の限界に関する警告だ。「削っていいのはムダ。削ってはいけないのは人の成長です」試す→失敗→直す→学ぶ、というプロセスがなければ平均品質は下がる。
AIで効率化した結果、学習機会まで削ると、長期的には広告効率が悪化する。
これは短期ROIと長期クリエイティブ資産のトレードオフを明確に言語化したものだ。
まとめ:制作は“作品”から“学習システム”へ
渡辺氏の話を整理すると、生成AIが変えるのは制作コストではなく制作の意思決定構造である。
- 一発勝負 → 検証ループ
- 後工程修正 → 前工程確定
- 残業吸収 → 構造設計
- コストKPI → 学習KPI
そして最終的な結論は極めてマーケティング的だ。
「無駄は削る。品質は守る。これが生成AI時代の勝ち方です」
制作を“祈る仕事”から“検証する仕事”へ。
Skyartsの提示したモデルは、クリエイティブを感覚の領域から運用の領域へと引き戻すものだった。
まとめ:これからのマーケティングはAI・愛・アドレナリンが「組織の学習速度」を決める
今回の4社の事例を並べて見えてきたのは、生成AIの活用有無そのものではなく、
意思決定の前提を作り替えているかどうかという差だった。
AIを導入した企業と、AIを前提に事業を再設計した企業の間には、すでに明確なギャップが生まれ始めている。
Knownsは「調査の遅さ」というボトルネックを消し、意思決定の回転数を上げた。
NELは「効く広告」から「愛される発話」へと評価軸を変えた。
ギフティは「贈り物」を「関係性の流通設計」に再定義した。
Skyartsは「制作物」を「学習ループ」に置き換えた。
共通しているのは、AIを効率化ツールとしてではなく、
学習速度を上げる装置として扱っている点である。
そして、その学習を回し続けるために必要なのが、顧客や商品への愛と、組織を動かすアドレナリンだった。
AIだけでは組織は変わらない。愛だけではスケールしない。アドレナリンなしでは持続しない。
3つが揃ったとき、はじめてマーケティングはAI時代に必要な「仮説 → 検証 → 学習 → 再設計」の高速ループに入る。
生成AI時代の競争力とは、ツールの性能ではなく、組織の学習速度そのものなのである。そして各社とも「捨てたもの」「加えたもの」「共に作るパートナー」
各社に問い合わせたい方はこちらから
ご回答をありがとうございました。 ✨
Unlearn/Re-learn/Co-worker整理
| 企業 | Unlearn (捨てたもの) |
Re-learn (加えたもの) |
Co-worker (共に作るパートナー) |
| Knowns | ・プロジェクト型の高額リサーチ ・月単位の意思決定サイクル ・データ収集に時間を使うマーケター像 |
・サブスクリプション型データインフラ ・リアルタイム調査と自動分析 ・マーケター=意思決定者という役割 |
・AI×定点データによる常時仮説検証環境 |
| NEL | ・フォロワー数・単価中心のキャスティング ・“誰でもいい”インフルエンサー施策 ・指標は良いがブランドが積み上がらない運用 |
・商品愛を持つクラスター設計 ・発話量と熱量の設計 ・愛用者数という定性的KPI |
・推し×ブランド×コミュニティの関係性プラットフォーム |
| ギフティ | ・ギフト=モノという発想 ・贈り手が悩むUX設計 ・一方向的な贈与モデル |
・ギフト=つながりの装置という定義 ・摩擦(物理/心理)の分解と設計 ・受取手が選べる仕組み |
・幅広いギフトコンテンツとデータ×AIによる関係性の継続設計 |
| Skyarts | ・一発勝負型制作 ・撮影してから考える進行 ・残業で吸収する制作構造 |
・試作→検証→本制作の順序 ・検証回数をKPIに置く運用 ・AIをテスト装置として使う思想 |
・クリエイティブを学習システムとして回す制作体制 |

