筆者は昨年、話題のニュースキュレーションアプリ動向(1)「大手各社、会員拡大へ広告強化」という記事を執筆したが、それと似たような現象が今、音楽配信サービスに起きている。ニュースキュレーションアプリの時には新興のベンチャー企業が目立っていたが、音楽配信ではすでに巨大な顧客ベースを持つ大手インターネット企業(サイバーエージェント、LINE、Apple)が主役となり、大規模なマーケティング投資を行っているのが特徴だ。
AWA、LINE Music、Apple MusicがテレビCMを開始
音楽配信サービスに参入した3社のテレビCMから、各社の思惑を読み解いてみたい。
AWAは人気のシーン別プレイリストが鍵となるか?
エイベックス・デジタルとサイバーエージェント(CA)が事業展開するAWA(アワ)のCMは、全体的にインターナショナルな“クラブ”や“DJ”のイメージを出しており、CM中に音楽を聴くときのムードや聞くシチュエーションを言葉にして出している(HAPPY, EXCITED, RELAX, LOVE, SAD, DARK, MORNING, SLEEP, STUDY, WORKOUT, PARTY, DRIVEなど)。特定のタレントにフォーカスすることなく、音楽もオリジナルを作成して使用している。
実際にAWAでは、著名人や専門家、個人が作ったプレイリストが人気で、良く聞かれているということである。
「プレイリストは日々増えており、1人で100以上のプレイリストを作っているユーザーもいる、人気のプレイリストは1万人以上にお気に入り登録されているものもある」「8曲を単位とするプレイリストは30分ほどの長さになり、集中して作業をしたいときやある気分に浸りたいときにぴったり、よく聞かれる時間帯は自宅~通勤まで、帰宅時、夜寝る前」(CA広報・上村嗣美氏)。
また、プレイリストをつくることにより、「すべての曲が生きている“捨て曲が無い”状況を作りたかった」(CA藤田晋社長)という。また「AWAのロゴを左右対称にこだわったほか、ネーミングやビジュアル、また特に音楽プレーヤーとしての使いやすさにはかなりのこだわりを持って臨んだ。昔CDを買っていた層も狙っているので、音楽を所有している感も出したかった」(同)ということである。
実際に、CM発表イベントでは小室哲哉氏らをキャスティングし、音質も64、96、128から320kbpsの高音質まで対応しており、狙っている世代もバブルを経験したような世代が含まれるではないかと考えられる。
30秒試聴が可能な新世代音楽コミュニケーションツール:LINE MUSIC
LINEのテレビCMを見ると、ティザー編では女子学生に扮した桜井日奈子さん、サービス開始後の本編(~聴く編~)では雨の日に自宅でスマホを片手にカーリー・レイ・ジェプセンの“I Really Like You”を聴きながら踊っている小松菜奈さんと、人気上昇中のモデルをキャスティングしていることが特徴として挙げられるだろう。
そしてキャッチフレーズとして“音楽をLINEしよう”と音楽をコミュニケーションツールとして使う新しい提案をしている。LINE MUSICには有料課金サービス時には“学割”も用意されていることから、まずはLINEのヘビーユーザーである若い人向けにアピールしたいという姿勢がCMとも相まって見えるのではないだろうか?
LINE MUSICは6月11日にスタートしたが、開始日は秘密だったためにその朝、情報番組で開始が報道された時には「毎分10万人以上のアクセスがあり、システムが耐えられなかった」(LINE舛田淳 取締役)という現象が起きたという。またLINE MUSICにもプレイリストがあり、「プレイリストは予想以上の利用率」(同)ということである。
しかし、筆者が考えるLINE MUSICの最大の強みは、そのコミュニケーションサービスとの親和性である。
LINE MUSICは楽曲を自分のタイムラインにシェアする機能を持っており、有料サービスに加入しなくても30秒間の視聴が可能なため、スタンプ的に使うことが可能である。また、有料サービスは30日単位で更新(自動更新ではなく)されるために、「好きな時に、手軽に音楽配信を聴ける」サービスとしてユーザーの会話のなかで広がってゆく構造になっている。
手軽に使えるが「LINE MUSICは本格的な音楽サービスを目指しており、音質なども通信環境によって最適化するなどのきめ細かいサービス開発を行っている」ということで、64, 192, 320kbpsの中から通信環境に合わせた最適な配信が行われる(Apple Musicは256kbps固定、AWAは64, 96, 128, 320kbpsを選択)。“簡単なのに音質がいい”というところもLINE MUSICの強みとなっていくのではないか?
音楽の歴史を訴え、スケール感を演出するApple Music
Apple MusicのテレビCM
1888年に始まり蓄音機、ジュークボックス、ラジオ、レコード、カーラジオ、ラジカセ、オープンリール、エイトトラック、カセットテープ、CD、カーステレオ、音楽ダウンロード(iTunes)、iPod、iPhoneと音楽の視聴形態の歴史を表現して2015年にApple Musicという形で音楽の消費形態が根本的に変わろうとしていることを演出している。音楽の視聴の仕方が変わることを世界スケールで訴える内容となっている。
Apple MusicはiTunesで蓄えた膨大な音楽資産に加えて、大きな特徴としてはBeats 1 Radioという配信番組がありロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドンのスタジオから24時間365日放送されており、著名なDJやミュージシャンも登場する。
ラジオはタブにもなっており、簡単に探して聞くことが出来る。AWAやLINE MUSICのプレイリストと同じように“受動的に”音楽を聴くことができる仕組みである。
本当の勝負は追加機能の開発と有料サービススタート時
この様に各社サービスが始まり、順調に利用者を伸ばしているようであるが、本当の競争はまだまだこれからだ。というのも、まだ各サービスが「無料お試し期間」で本格的な課金が始まっていないので、どのくらいの収益を得ることが出来るかは未知数だからである。
音楽はスポンサーの関係などで広告モデルをとることが難しいからなおさらであろう。カラオケなどに広告が入っていないのはそのためである。
さらに各社次々に新機能を開発しており、すでに導入されているものもあるが「ソーシャル機能」「ランキング機能」「オフライン再生モード」「ローカル音源再生」「PC版やタブレット版、ウェアラブル端末、車載端末」など、有料サービス開始に向けて着々とサービス拡充をしてきている。
AWAは6月22日にApple TVでのAirPlay対応や、音源の音量調整機能、スリープタイマー機能を iOS版に追加した。LINE MUSICでは開始1カ月で430万ダウンロード、4億曲以上を再生というニュースリリースが出されているが、同時に「オフライン再生モード」をリリースしている。このようにユーザーが希望する新しいサービスをいかに早く開発しユーザーを獲得し囲い込むかということが重要になると予想している。
どのサービスも「海賊版対策」を前面に打ち出す
この様なサービスが受け入れられるためには、当然であるが楽曲供給サイドの協力も必要になってくる。そのためにどのサービスも掲げているのは「海賊版対策」である。
日本レコード協会の調査によると2013年9月調査時点での年間違法ダウンロードファイル数は29.3億ファイルに上るとしているほど深刻だ。
楽曲単位でのユーザーあたりの課金額は音楽定額配信サービスではCD販売やダウンロードより少ないかもしれないが、ユーザー層の拡大や何よりも海賊版の減少が見込めるのであれば、業界全体にとってはプラスに働くのではないか。
利用者はいちいち手間をかけて違法の音楽をダウンロードして、懲罰やウィルス感染、ネットトラブルのリスクにさらされるよりも、月額の固定料金を支払って聞き放題の方がお手軽で安心であることは間違いない。とはいえ、アーティストによっては新譜が提供されないケースもあるので、あらゆる課題が一気に解消とはいかないだろう。
有料課金が本格化して、新しい機能が充実してくる今年度末にはどのような進化を遂げているだろうか。
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