訪日客によるインバウンド消費の開拓が、今後の日本経済の重要なテーマになると言われているのはご存じのことと思う。また、その中で日本に旅行中の観光客が最も不満に思っていることも明確となっている。それはWifiの接続環境が乏しいということである。
筆者も海外に出張や旅行をする際にはWi-Fiをよく利用するので、日本と比べた環境の良さを実感することが多い。もっとも、これは訪日観光客に限定された問題なのであろうか?
私は、Wi-Fi環境が整っていないのは外国人だけではなく日本人にとっても同じく問題だと考えている。そしてそれは個人の生産性にも大きく影響し、ひいては国際競争力の低下につながっている一要因ではないだろうか。逆に、Wi-Fi整備に当たって様々な施策を導入すれば、個人の生産性も上がり、経済効果もあり、国際競争力の向上につながるのではないかと考えている。
個人の生産性向上につながるWi-Fiと電源の設置

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例えば外出中、時間が余ったなどで喫茶店に入るとき、皆さんはどうされるだろうか。私はまず、電源とWi-Fiを探す。メールチェックだけならばさほど問題ないが、資料作成や原稿執筆のような場合にはWebでいろいろと調べながら行うケースが多いので、安定したWi-Fiと、通信で消耗するPCに対応する電源環境が欲しいのである。しかし、往々にして電源やWi-Fiがない、あるいはあったとしても少なくてすでに一杯であったり、お店の方針で客には開放していないという事態に多々遭遇し、安住の地を見つけるまで相当の時間を要する場合がある。
またセミナーなどでは、盛況な会場であるほど自前のWi-Fi関連機器が通じにくく、あるいは電源の供給もないケースが多いと感じる。このストレスと、接続するのにかかる時間のロスに関しては、日本のビジネス環境全体として考えると相当な量になっているのではないか。
海外に行くと、空港やカフェなどではたいていWi-Fi環境もあり、電源を利用しても咎められることはない。海外カンファレンスなどでは速度はまちまちであるが必ずWi-Fiが供給され、スポンサー名がログインIDやパスワードとなっている。参加者はWi-Fiでつながり、充電しながら講演を聴くと同時にメールチェックや資料づくりというマルチタスキングを実施しており、大抵の場合には会場で参加したイベントのレポートをその場で作って提出しているのである。
会場ではPCを開かず手書きでノートを取り、電車など移動中にメールをチェックし、出社後にレポートを提出することがいかに非効率かという点はわかるのではないだろうか。このようなことの積み重ねが日本のホワイトカラー生産性の低下、ひいては国際競争力の低下を招いているのではないかと危惧してしまうのだ。
もちろん講演中に聞いていないことや、PCを開いているのは失礼とする考え方もあるだろう。しかし、心を掴む講演や、重要なテーマであれば自ずと手を止め聞き入るのではないだろうか。そのような講演で観客を掴むことこそが重要であり、最近セミナーなどが多発している傾向にありプレゼンテーションの品質にばらつきがある中では仕方がないのではないか。ちなみに筆者も講演中はその人物や講演内容の周辺情報調査、メモやレポートの作成を行うことが多い。講演する立場で考えても、手ぶらで腕組みをしたまま居眠りされるよりはパソコンに向かっている方がいいと感じる。
では、会場に電源やWi-Fiが設置されていないのはなぜか。日本と海外の違いはどこにあるのか、その解決策を考えてみたい。
1.【問題】会場・店舗のインフラ
セミナーの会場の電源容量が足りない、Wi-Fiの容量が少ないなどの問題に起因している。あるいは追加料金が負担となり運営を圧迫するなどの理由で導入されない。
【解決策】インフラの増強(可視化・ランキング、補助金制度など)
インフラが足りない場合には設備投資をして増強するしかないが、導入側も投資効率を正当化できない限り増強はできない。そこで、いくつかの案を提案したい。
a)会場や店舗に一番効果的なのは売り上げに直結すること。仮に講演会場や店舗のWi-Fi環境や電源環境を可視化、ランキング化するコンテンツが登場したらどうなるだろう。主催者も参加者も事前にチェックができ、成約率や集客に差が出てくるのではないだろうか?
ちなみに海外ではこのようなランキングサイトが存在する。
b)以前あった“省エネ家電”などのような補助金制度を導入することにより、国策としての明確化と導入の経済的なハードルを下げることが期待できる。Wi-Fi、電源インフラ増強工事などに対してぜひ適用してほしい。
2.【問題】インフラはあるが料金が高いなど、採算面などで見合わない場合
十分なインフラは確保されているが、導入・提供料金が高く実施できない場合はあるだろう。そのような場合には経済的に見合うように変更することが必要である。
【解決策】競争原理、新しいビジネスモデルの導入
a)競争原理:この前のところでも書いたが、会場や店舗ごとにWi-Fiや電源環境を可視化し会場のブッキングや集客に影響が出るようになると料金やサービスの見直しがされると考える。
b)新しいビジネスモデル:会場あるいはイベント運営者がWi-Fi または電源のスポンサーとして提供。筆者の提供するビジネスモデルとしては以下の通り。
会場全体をネットワーク事業者が冠提供:〇〇ホテル Connected by××ネットワーク、××パワーなどネーミングライツ的に包括提供する。ネットワークのパスワードを(有料の場合でも)“XXネットワーク”などに設定。電源にロゴマークを記載。ネットワーク・電源業者は離反防止策と新規獲得に効果が期待できる。
イベントごとにスポンサーを設定:イベントの運営者が自社でスポンサーを募り、電源・Wi-Fi提供に関して、パスワードや電源ロゴを設定できる。参加者が特定できるイベントでは消費者向けの新製品認知からビジネス向けクラウドサービスなどまで幅広いスポンサーを見つけることが可能となる。接続当初はスポンサーのページに誘導するなどの施策も可能で、ユーザーの情報なども法令に従い許可を得ることで可能となると考えられる。
本コラムは筆者が日本の店舗やイベントで抱いている違和感を元に書いたものであり、いささか主観的な点は否めないが、Wi-Fiと電源の整備はこれからの日本の成長に大きな意義を持っていると考えている。IoTのビジネスを推進したり、ライフスタイルの変革、ワークスタイル変革などを推進するうえでも社会全体でのインフラ普及が必要となるだろう。
インバウンドの旅行者向けだけの施策ではなく、国内経済・ビジネスを推進する上でも大きな役割を担うと考えられる。このことは特にIT、アドテク業界においてはクラウド型サービスの普及、Webアクセスの在庫の増大などと言った業界全体の問題の解決にもつながる。読者の皆様も是非“自分事”として捉えて一緒に声を上げていただければと考える次第である。
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