LINEの事業戦略発表イベント「LINE CONFERENCE TOKYO 2014」が10月9日、舞浜アンフィシアターで開催された。決済サービス「LINE Pay」、タクシーが呼べる「LINE TAXI」、デリバリーサービス「LINE WOW」、屋内地図サービス「LINE Maps for Indoor」など、非常に多くの新しいサービスの発表があった。また以前に発表されていた「LINEマンガ」での講談社、小学館、メディアドゥとの提携に加え、ゲームでは「LINE x CyberAgent」、「LINE x GREE」、音楽分野では「LINE Music」をソニー・ミュージックエンタテインメント、エイベックス・グループと立ち上げるなど数多くの大型アライアンスの発表が行われた。
コミュニケーションに関しても個人のプライベートアカウントに加え、従来は利用者を制限していたビジネス用アカウント「LINE @」を開放し誰でもLINE上で情報発信できるようにしていくほか、「LINE公式ブログ」や「LINE有料公式アカウント」をスタートさせるとしている。
<参考>
LINE、事業戦略発表イベント「LINE CONFERENCE TOKYO 2014」を開催
「LINE@」のID、全ユーザーに開放 “仕事用サブアカウント”誰でも可能に
LINE 世界で登録ユーザー数5億6000万人突破、より生活密着のサービス展開へ
コミュニケーションサービスから生活インフラへ。ライバルは携帯キャリア
今回筆者が強く感じたのは、カンファレンスのテーマでもあった「LINE」が生活のインフラ「ライフライン(LIFE LINE)」を志向して進化しているということだ。従来のLINEはコミュニケーションインフラとしてスタンプなどの新しい機能を提供していたり、従来からの得意分野であるゲームをベースとしたサービスや地域拡張を進めていた。しかし、今回は「コミュニケーションインフラ」としての消費者の生活に不可欠なサービスを拡張していくなど方向性の変換が見えてきた。
従来、決済サービスなどを提供しているのは携帯キャリアなどのインフラ提供業者であり、その意味で今回発表されたLINEのサービスは携帯キャリアがライバルとなるサービスと位置づけられる。しかも、LINEは海外もカバーしているサービスであり、当初よりグローバルを視野に入れたサービス開発や展開ができる。利便性や展開スピードも従来のものを凌駕する可能性があると筆者は考えている。
LINE Payがもたらす生活様式の変化の可能性
特に注目しているのはLINE Payである。このサービスはコミュニケーションと組み合わせることで、世の中を大きく動かす可能性があると考えている。どのような変化が起きるかを予測するにあたって、その変化を考える上でLINE Creators Marketがもたらした変化を考えてみたい。
LINE Creators Market は2014年5月に始まったサービスで、TOP 10の作者のスタンプ販売額平均が3000万円を超えているという。これは今までは趣味でイラストを描いていた作者が出店して人気を博してベスト10に入ると月間600万円近い収入が期待できるということである。このように新しい仕組みが出来ると新しい経済圏が発生し、今まで想像できなかったような収益を得ることが可能になるのである。
LINE Payは本年の冬より順次開始され、グローバルではクレジットカードでチャージできるほか、国内ではコンビニエンスストアや提携銀行(みずほ銀行、三井住友銀行)の口座よりチャージできるとしている。LINE Payならではの特徴として友人間で、決済した商品・サービスの購入費用を複数人で「割り勘」する機能や、相手の銀行口座を知らなくても友人のLINE Pay口座宛てに送金する機能も持っているという。
また、送金されたお金は、銀行口座から引き出すこともできる。一見するとごく当たり前のサービスであるように見えるかもしれないが、筆者はこの「コミュニケーション」x「決済」というコンビネーションは世の中を大きく変える力を持っていると感じている。
プロの宴会幹事という職業が生まれる可能性
LINE Payの「割り勘」のサービスは、代表者がお店に総額を支払う代わりに参加者にLINEで「割り勘」依頼を行い集金・決済するサービスである。例えば宴会などではいわゆる「幹事」がこれを取り仕切ることになるのであるが、宴会などを集客したいお店ではここに目をつけるのではないかと考えている。
例えば、お店側で幹事に一定の金額をキックバックすることを条件に自店の宴会を催すことを行うと、毎日、場合によっては複数の宴会を仕切る「プロの幹事」が登場することも考えられる。このようなことは今までも可能であったと考えられるのであるが、LINEというコミュニケーションインフラと直接つながり「割り勘」という専用サービスが開発されたことにより飛躍的に伸びる可能性があると考えている。
従来は自分の人間関係を成長させることを直接短期的にマネタイズすることは難しかったが、「プライベートソーシャルグラフ」と「決済」がつながることにより可能になる世界と筆者は考えている。
若い世代への金融資産の移行を促す可能性
野村資本市場研究所の野村資本市場クォータリー 2014 Summerによると日本の個人金融資産は1630兆4045億円であり、その60%以上が60歳以上の高齢者によって占められているということである。LINEのユーザーにはまだ高齢者が少ないが、筆者は最近「孫と会話するためにLINEを始めた」といった話をよく聞く。
これは主に祖父・祖母側の欲求によるもので、孫側にはあまりつながる直接的なメリットはないのではなかろうか? しかし、LINE Payが出てきて直接送金が出来るようになると話は別であろう。会話を通じて欲しいものを買ってもらえたり、お小遣いや、お年玉がもらえるとすれば積極的に祖父・祖母ともつながるのではないか。
これは、家族の絆をより強化するという側面を持つと同時に、若い世代への金融資産の移行という側面をもつ。そしてそれにより経済が活性化されるという可能性が生まれる。大学生の仕送りや、中高生のお小遣いはLINE Payによって送られることが当たり前、その代わり親は子供とのコミュニケーションを担保できるというWin-Win関係の構築も見えてくるのである。
一方で多くの問題が発生する可能性も
決済とコミュニケーションが直接つながることは、利便性を増す一方で大きなリスクを伴う可能性がある。LINE Payは「セキュリティシステムとして、1)LINEとは別の2次認証パスワード 2)Apple Touch ID (AppleタッチID)による指紋認証でのパスワード照会(iPhoneのみ) 3)PCサイト利用時のスマートフォン認証を採用予定です。これにより、安全・安心にご利用頂ける決済機能を実現いたします」ということであるが、筆者は以下のような事象が発生する可能性があるとしてあらかじめ警鐘を鳴らすとともに、新しい経済圏確立のために関係者の余念なき準備と不断の改善をお願いしたい。
「孫なりすましアカウント」の発生:高齢者に対し、LINEのアカウントを悪用した新型の詐欺の発生が懸念される。これは全くの他人が「なりすます」ケースと実際の孫のアカウントが乗っ取られるケースの両方が考えられる。現在もなりすましによりプリペイドカード購入詐欺の事例が報告されており、このような事例が被害を生まないような教育も必要であろう。
マネーロンダリング:LINEは当初からグローバルを意識し国際決済も視野に入れていることから国際間の資金移動や不正に得た資金の浄化などに活用される可能性が考えられる。親しい間柄の決済を装って行われる決済が実は全く違う目的で行われる不正なものであるようなケースも現れるのではないか?
上記のようなリスクもあるが、生活する上で考えると非常に便利になりメリットがはるかに上回ると考えている。電子マネーやそれに伴うSUICA/PASMOなどのサービスが普及したのはそう昔ではない。皆さんの生活の中でも例えば電車に乗るのに切符を買って、改札で駅員に切ってもらう時代に戻るという事は考えられるであろうか? かなり不便になると考える人のほうが多いのではなかろうか。
また、今回の発表資料を見ていただくとわかるのだが、発表言語は日本語でも、資料はすべて英語でできているのである。当初からグローバルを目指すサービスとしては、少なくとも資料は英語で統一するという事が今後のスタンダードになってくるのではないだろうか。グローバルを見据えたLINEのライフライン化からしばらく目が離せない。
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