前回のコラムはピコ太郎の止まらぬブームのおかげか、かなり読まれた様子でありがたい限りである。 今回はヒットしてきたパターンの経緯を中心に記事にしてみた。ちなみにソーシャルメディアでのヒット要因は「オリラジ新ネタはなぜバズったのか? ソーシャル時代のコンテンツ企画」という記事にも書いてあるので、ぜひこちらも参照いただきたい。
ピコ太郎もRADIO FISHも「WEB TV ASIA AWARDS 2016」という韓国のコンテストで受賞していることを見ても、日本のコンテンツはアジアに流れてゆく傾向があるようである。これは特に東南アジアを中心とした日本への好感度が関与していると筆者は考えている。
「ジャパンブランド調査2016」では日本のことが好きな国ランキングでは、タイ、ベトナム、フィリピン、シンガポール、マレーシア、香港、台湾、インド、インドネシア、ブラジルと東南アジアの国を中心に推移している。
『PPAP』はスマートフォン動画時代の幕開け

前回のコラムで、筆者は世界的にヒットした静止画「マカンコウサッポウ」の広がりに似ていると書いたのだが、もう少し詳しく解説したい。
今回の動画の広がりに必要なハードウェアやネット環境やサービスのインフラを考えてみたい。まずは動画をアップしたピコ太郎はYouTubeの公式チャンネルに上げており、これは以前から揃っていた環境である。違うのはその他の受け手の環境やサービスの進展であるといえよう。静止画と動画ではファイルのサイズが違い、「マカンコウサッポウ」では静止画だったので、アップロードされていた画像は100-300kB前後であったのに対して、『PPAP』は約1分のビデオなので5.5MBと20-50倍以上の容量に膨らんでいることが分かる。つまり、それを支える通信やサービスインフラが現在整っているのである。
インフラが整うことは非常に重要で、スピードが無いと拡散スピードも落ち、見たり、真似したりといった、興味が熱いうちに実行できないことになる。スピードが手ごろな価格で入手できなければこちらも拡散せず、ハードウェアやそれをサポートするサービスなども整備していないといけない。
筆者は前回の「マカンコウサッポウ」では静止画とTwitter、今回の『PPAP』では動画とFacebook、Instagram、Twitterという組み合わせが大きかったのではないかと思っている。Instagramは2013年に15秒の動画投稿を認め、本年の4月には60秒に拡大している、またTwitterも2015年に30秒の動画投稿を認め、本年には子会社のVineも合わせ140秒の動画投稿に拡大している。
この様にハードウェア、通信環境やサービスが揃ったところに良いコンテンツがくると爆発的なヒットになり、コンテンツはその時代の象徴として語り継がれるのである。
若干、見方は違うかもしれないが、インフラが後押ししてヒットしたアプリにはスマホネィティブテレビアプリの「AbemaTV」があると考える。こちらは半年強で1,000万ダウンロードを達成しているが、筆者は昨年ではこのスピードで成長していなかっただろうと考えている。
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「マカンコウサッポウ」 (2013/03) |
『PPAP』 (2016/10) |
コメント |
ファイル容量 |
100-300KB前後 |
19MB(1280 x 720) 5.5MB (640 x 320) |
『PERFECT HUMAN』は65MB, 25MB |
通信スピード |
3G (~14Mbps) |
4G (100Mbps~) |
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使い放題目安 |
5,700円 (128Kbps) |
6,700円 (4G LTE) |
各種プランあり |
カメラ解像度 iPhone 5 vs 7 |
800万画素 HD ビデオ |
1,200万画素 4Kビデオ撮影 |
iPhone 7では |
サービスや広告メニュー |
PCサービス中心 Youtube、Ustream、 ニコニコ動画など |
Instagram動画対応(2013/06) , Facebook動画広告(2014/05), Twitter動画対応 (2015/01) |
Instagramは60秒以下、Twitterは140秒以下 |
コンテンツとしての魅力、拡散性
今回の『PPAP』は動画として特に広がりやすい要素を兼ねそろえていたといえるだろう。それは、①見た目のインパクトとギャップ、②音楽とダンス(非言語性)、分かりやすさ、真似しやすさ、ノリの良さ、③そして多用されたP音(パ・ピ・プ・ペ・ポ)という言葉であると考える。
見た目のインパクトとギャップ
カンヌ国際広告祭などで、コミュニケーションで重要と言われるものに“インパクト”がある。これは頭の中でそのものを記憶しやすいようにまず「?(疑問符)」を生じさせる効果があるからである。ピコ太郎の風貌はパンチパーマにサングラスとひげというヤクザスタイルで、全身ヒョウ柄で大阪のおばちゃんの格好をしているという奇妙奇天烈なユニークさがある。迫力はあるがダンスの中で見せる可愛さやフェミニン性等のギャップも大きくなり、最初は頭の中が「?」だらけになるだろう。
音楽とダンス(非言語性)、分かりやすさ、真似しやすさ、ノリの良さ

以前の記事にもあるように『江南スタイル』や『PERFECT HUMAN』のように音楽とダンスを組み合わせたものは動画として流行りやすい。しかし、今回『PPAP』が際立っていたのが非言語性ではないかと考える。英語の中でも最初に覚えるような“I have a pen.”、”Apple”、”Pineapple”という言葉しか使っていないのである。また、国際的にヒットしたきっかけとなったChee Yee Teoh氏の動画では、前後のピコ太郎部分が編集でカットされていて、日本以外の人が見たときには“ピコ太郎”という日本のキャラクターではなく、まるで国籍不明のキャラクターのように見える。そこに日本人でなくても理解できる歌詞やダンスの分かりやすさ、短いことによる真似しやすさ、リズムのノリの良さが加わり、ドナルド・トランプ次期大統領の孫のアラベラちゃんをはじめ、多くの人に真似され、拡散することになったのであろう。
そして多用されたP音(パ・ピ・プ・ペ・ポ)
『PPAP』の歌詞を見てみると“パピプへポ(P)の音”に溢れていることに気が付くと思う。
「ピ・ピ・ピコ太郎 ピコ
I have a ペン I have an アポ―
アッポ―・ペン
I have a ペン I have パイナポ―
パイナポ―・ペン
アポ―ペン パイナポ―
ペン・パイナポー・アッポー・ペン」
このコラムで取り上げた「マカンコウサッポウ」も、『江南スタイル』、『PERFECT HUMAN』や「そんなの関係ねえ(オッパッピー)」にも入っているし、きゃりーぱみゅぱみゅもしかりである。
歴史的にインターネット時代以前から“パピプペポ”を使った言葉は浸透しやすいようである、今回は“ピコ太郎”という名前も含め意図的に固めたと考えられる。
それは、特にお菓子の分野で多く見られると筆者は考えており、特に江崎グリコではポッキー、プリッツ、パピコ、カプリコ、アーモンドピーク、プレミオ、ペロティ、プティキュ、パナップ、パリッテ、パティーナ、アーモンド&プレッツェル、プッチンプリン等々、多くのヒット商品にパピプペポが使われているのである。“P音”は唇をくっつけてから空気の爆発で音を出すので覚えやすいのであろうか? マイナビ編集部では児童学に結び付けて『「ぱぴぷぺぽ」がヒットを呼ぶ?子どもの人気者になれる法則って?』というコラムも発表しているのでそちらも参照いただければと思う。
『PPAP』のような要素があり海外でヒットした事例に、小島よしおの「そんなの関係ねぇ」があると思う。もし、あのギャグが出てきたときに今のネット環境が揃っていたら、こちらも世界的なヒットになっていたのではないかと感じている。インパクトがあり真似しやすく、“P音”を使っていたので、ネット環境が整っていればもっと海外でも普及したであろう。今後もこのようなものが登場してくることを願いたい。
『PPAP』ヒット要素分析第一弾はこちらから
>>『PPAP』に学ぶ!世界に拡散されるコンテンツのヒット要素分析(1)