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スティーブ・ジョブズの残したものは?アップルの強さについて考える

いつか来るとわかっていたが、非常に残念なニュースが先週飛び込んできた。今や世界の時価総額最大の企業、アップル社の前CEOであるスティーブ・ジョブズ氏の訃報である。本年1月に書いたコラム 「創業者支える「経営のプロ」の存在――米IT企業の役割分担」でも書いたとおり、ジョブス氏はカリスマと呼ばれるにふさわしい人物であったと思う。アップル社はジョブス氏自身の出入りなど紆余曲折はあったものの、少なくともジョブス氏が関わった製品には一貫してある哲学があったと考えるので今回はその点をジョブス氏の冥福を祈りつつ書いてみたいと思う。

シンプル・イズ・ベスト

アップルの製品に共通しているコンセプトの筆頭にあげたいのが「シンプルさ」である。その製品を見ても多くのボタンなどを備えていないことがわかるであろう。アップルの製品は多くのパーツには分かれておらず、完成形であり他の製品のように組み合わせを許さないものが多い。

例えばPCであるiMacでも「本体+モニター」という構成ではなく、一体型としており、キーボードなども純正品でないと使いにくい形になっている。iPhoneも極力ボタンなどは少なくしており、外部接続もiPod Dockとスピーカーと接続だけであり、日本の従来型携帯電話では標準となっている外部メモリーやバッテリーの取り外しすら出来ない構造になっている。これは、デザイン性を高める意味もあるが、利用者の覚える操作を最小にして、使いやすくする意味合いも含まれている。

ユーザーインターフェィスに慣れさせる

アップルのコンピューターの革命はそのユーザーインターフェィスにあったといってよいであろう。それまでのパーソナルコンピューターはコンピューターに対する指令(コマンド)をキーボードで打ち込むことが主流であったのに対して、マウスでコンピューターのアイコンをクリックするという画期的なインターフェィスを導入したものである。グラフィック・ユーザー・インターフェィス(GUI)と呼ばれるコンセプトはマイクロソフトもWindows 95の導入で取り入れたことにより、それまで操作しにくかったパーソナルコンピューターが広く家庭に普及してゆくきっかけになるのである。

垂直インテグレーションになるべくこだわる

事業を経営するときに必ずといってもある段階で考えるのが、バリューチェーンを一貫して押さえる「垂直統合型」をとるか、自分の得意分野に特化する「水平統合」を選択するかであろう。垂直統合は上手くいけば利益も大きいが、色々なノウハウが必要な上、ユーザーを獲得する上でのハードルがある。その一方、水平統合は自分の領域以外のバリューチェーンは他社を利用するので、普及が早いのであるが収益性が低くなる傾向がある。

例えば、iTunesは自社で音楽と決済を用意するため楽曲集めや、クレジットカードの登録というハードルを生むのであるが、一度登録したユーザーは気軽にサービスが使えるために利用が多く頻繁である。また、アップル社は販売においても自社の流通(アップルストア)を実店舗とインターネット店舗に展開しており、卸売り業者で他のメーカーとは一線を画すのである。ただし、例えばiPhoneなどの携帯電話事業においては通信業者にはならず、垂直統合を果たしていない分野もある。

画質に徹底的にこだわる

この部分はアップル社が一番こだわっている部分ではないかと考えているが、アップル社の製品で静止画や動画を見ると他の製品で見るよりもきれいに見えるのではないだろうか? このユーザー・ベネフィットを担保するために、自社の製品には自社以外のモニターを接続させないのではないかと考えてしまうほどである。また、外部から持ち込む静止画や動画に関しても自社のモニターで最適に見えるように補正しているのでは無いかと考えている。例えばiPad用にiTunesの専用ソフトで最適化された画像(静止画・動画)を一般的なWindowsのパソコンやアンドロイドのスマートフォンで見ると物足りない気がする人も多いのではなかろうか。

若い顧客を徹底的に取り込む

アップルはそのPCの販売において昔より学生向けの割引を行っていた。筆者も米国留学先のスタンフォード大学院ではその制度を使っており、また、当時はMS DosやWindowsとアップルのPCではファイルの互換性がほぼ無かったため、周りのみんなが使っているアップルにせざるを得なかったことを思い出す。

これまでの述べたアップルの戦略をよくよく考えてみると、一つ(画質)を除いて利益を高めることに繋がることに気がつかされる。つまりアップルは学生のときからシンプルなユーザーインターフェイスに慣れさせ、垂直にインテグレーションされた選択の余地の少ない商品ラインアップを一生使い続けさせるというモデルなのである。収益を最大化しコストを最小化させる手法が随所にちりばめられている。

中でも視覚的な要素として、デザインも、スクリーンに映る画像も、テレビCMなどあらゆる広告も、アップルストアも、新製品を発表するときのカリスマのプレゼンテーションも最高のものを提供し、強いブランド力を構築することでファンを増やしてきた。これらの価値をアップル社に関わる全従業員に徹底させてきたスティーブ・ジョブズの抜けた穴をどう埋めるか。これらは絶妙なバランスで成り立っており、一つでも崩れると今まで享受してきた高収益と高いブランド力を維持することが難しいのではないだろうか。果たしてそれはカリスマ経営者のみがなしえることかどうかは今後の歴史が証明してゆくであろう。

江端浩人「i(アイ)トレンド」バックナンバー
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