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大学生の企画力が予感させる「キュレーション・マーケティング」時代の到来

大学生による様々な活動が活発化

先週、たまたま学生の企画を審査する機会に二度立ち会った。ひとつは学生のマーケティングコンテスト「applim+(アプリムプラス)」の決勝レセプションであり、もうひとつは某インターネット企業のインターンシップの一環としての企画プレゼンであった。

applim+の決勝レセプションには約1000人の学生が来場した(東京都江東区の東京ビッグサイト)

まずはapplim+であるが、記事掲載されているので詳しくはそちらを参照されたいが、昨年から実施されているコンテストで3回目を迎えたものである。第1回、第2回と優秀な企画が提案されたが、企画のみで実装されることがないことへの不満が多かった。そこで、今回は「優勝作品は実装」と掲げて募集を始めたところ定員100組があっという間に埋まってしまい、さらに120組に拡大して募集してそちらもすぐ定員となってしまったという人気コンテストである。

学生は1カ月間に及ぶコンテスト期間に、商材に関するアプリを活用したマーケティング施策をチームで考え、企業と審査員を前に発表する。商材は資生堂が「マジョルカ・マジョリカ」、日本コカ・コーラは「ジョージア」を提供した。一方、ネット企業のインターンシップではコカ・コーラをティーンに普及させる方法に関して3日間考えてプレゼンを行うというものであった。どちらの場合もプレゼン前日には少しでも良くするために徹夜をした組もいたようで、筆者はプレゼンで思いを伝えたいという大変な熱意を常に感じたものである。

学生ならではの新鮮な目線だが、実装化にはハードルも多い

実際、熱のこもったプレゼンはそれぞれ学生ならではの新鮮な視点が盛り込まれ、「その手があったか!」と気付かされるものも多く、筆者は個人的に非常に参考になった。この点に関してApplim+審査員の池田紀行氏(トライバルメディアハウス)は「視点が実現性とか課題ではなく、どうやったら面白いか」という点を講評で述べていた。

そのような素晴らしい視点も多いのだが、実施には課題が残るものが多かったことも否めない。例えば、Applim+で多くの協賛企業賞を獲得したが決勝に進めなかった企画については、その背景には「実施のコストがかかりすぎる」という理由も含まれていた。またapplim+ジョージア部門の優秀賞の一つは「ブランドの扱い」「企業や個人情報の流出」「想定された利用がされない場合の救済方法」など、実装までにクリアすべき点が多かった。

この点に関してApplim+審査員の勝野正博氏(博報堂DYメディアパートナーズ)は「突っ込みどころ満載の企画が多かった」と講評している。両コンテストではどちらも企画があらぬ方向にぶれないように社会人の指導者がいる「メンター制度」を採っているのであるが、実現性をめぐって細かく指摘し可能性を否定するようなことはしていないという。

大学生になじむテーマ・商材だからこそ秀作が集まった

大学生のコンテストを開くときにはそのテーマも重要であると考える。今回のテーマは、大学生に親しみやすい課題であった。化粧品のマジョルカ・マジョリカ、缶コーヒーのジョージア、清涼飲料水のコカ・コーラなどは普段から接しているブランドであり、仮にそうでなくとも簡単に接触できる商品である。また、参加学生のほとんどがパソコンとスマートフォンを持っており、日常生活で数多くのアプリを利用しているのでこちらもヘビーユーザーでもある。この二つが重なってこそ今回の施策は多くの優秀な企画が生まれたのではないかと思う。

すなわち、今回は商品の利用者が「このような施策があればもっと利用する」と考えた結果ではなかったのではろうかと考えるのである。逆に商材が極端ではあるが、例えばシニア向けの年金型保険や富豪向けプライベートジェットなど普段接触が無いものであったら成立しないであろう。しかし実際にユーザーの声を取り入れて行われるマーケティングは何も珍しいことではない。多くの企業がお客様相談室や最近ではソーシャル・リスニングを通じて商品やサービスの改善を行っている。

今後のマーケターの役割とは? キュレーション・マーケティングの可能性

ジャーナリストの佐々木俊尚氏は著書「キュレーションの時代」 の中で、キュレーションとは「無数の情報の海の中から、自分の価値観や世界観に基づいて情報を拾い上げ、そこに新たな意味を与え、そして多くの人と共有すること」と定義している。この視点はインターネット時代のジャーナリズムを述べたものであるが、色々な意味で示唆に富んでいると筆者は考える。

これをマーケティングに当てはめてみると「数多くのマーケティングアイデアの中から、ブランドの価値観や世界観に基づいて提案を拾い上げ、そこに新たな意味を与え多くの人と共有(施策を実施)する」こととも取れないだろうか。仮にこの考え方を「キュレーション・マーケティング」と呼ぶのであれば、筆者はインターネット時代に則していると考える。それはインターネットのマーケティング施策は完成形が無く常に進化するものであると考えているからである。

というのも、事前に完成品を入稿しなければいけない従来のマスと違い、インターネットでは色々なものを行い、効果が高い施策を残してゆくという手法が取れるからである。したがって、マーケティングにおいても各種施策を実施し、その中で効果の高いものを残してゆくこということが可能になってきているのである。その中でのマーケター役割は従来のものと変わってくる可能性があるのではなかろうか?

自分で良いアイデアを出すのは当然であるが、今後はターゲットが自ら出している良いアイデアを見つけ、それを現実的にどのようにハードルを乗り越えて実装につなげるか検討するということになるのではないだろうか。

そしてプロセスとしても従来のようにまず調査をしてターゲットのインサイトを推測し、そこに刺さる施策を考えるということを行わなくても、利用者自らがそのインサイトを述べ、企画を提案する場面に出会うだろう。その時にそれらの施策を取捨選択し、ブラッシュアップしながらも次々と実現していくことが求められるのではなかろうか。

例えば西友は最近、「サゲリク」キャンペーンを開始した。これは値下げしてもらいたい商品をユーザーにツイッター経由で募集するものである。値下げが実際に決まった商品は発表され、10月以降実際に値下げ販売されるという(記事の執筆時点でサゲリク公式アカウント @SAGERIKU_SEIYU はメンテナンス中)。

最後にはなるがこのコラムの場を借りて、プレゼンに関与した全ての関係者への敬意を表したい。参加した学生をはじめ、学生をサポートしたメンターや企業担当者、審査員、協賛企業やメディアパートナーなど多くの方の下支えによってこのような施策が実施可能になるのである。

そして何よりも筆者の目を開かせたのがapplim+の実行委員会の成長である。実は年初に今回のapplimの相談を受けたときには、「実装」を行いたく、男女のバランスをとるために資生堂さんを紹介したのであるが、新事務局が頼りなく見えて「本当にこのチームで大丈夫なのか?」と心配したものである。その後、震災による実施の延期などを乗り越えて、多くの学生や社会人を巻き込みながら無事にコンテストを実施し、最後には彼らの大きな成長を見届けることができた。そして、今後学生に約束した「実装」を手がけてゆきたいと意を新たにしたところである。また次の機会にも期待したい。

江端浩人「i(アイ)トレンド」バックナンバー
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