デジタルテクノロジーの進化による高付加価値エコノミー到来のシナリオについて、今年1月から複数回にわたって紹介している。今回は高付加価値経済に必要な賃上げについて考えを述べたい。
ちなみに前回のコラムで書いた“メルカリは“所有”と“利用”の中間地点か?”という点に関して、最近メルカリ自身が慶應義塾大学の山本晶准教授監修のもと調査を行っており、その結果を4月6日に発表している。
それによると、フリマアプリ利用者の中で「新品を購入する前に、フリマアプリで売り値を調べた」と回答した人は全体の半数を超えており(54.6%)、特に「ミレニアル世代」※では平均61%と高い割合を示した。
また、「売る時のことを考えて大切に扱うようになった」と回答した人も半数以上(53.2%)となり、特に30、40代では平均62%と高い結果が出た。フリマアプリ出現により、“購入の際の意思決定”や“モノの扱いかた”など、消費行動や意識に変化をもたらしていることが明らかになった。
※1980年代から2000年代初頭までに生まれた人
日本自動車工業会(自工会)が4月9日発表した2017年度の乗用車市場動向調査によると、“10~20代、「車買いたくない」5割超、レンタルやシェアに関心”といったデータも出てきている。
自社の従業員が経験したことのない製品・サービスは売れるのか
2014年のWorld Marketing Summit(WMS)で、米ノースウェスタン大学のケロッグ経営大学院のフィリップ・コトラー氏が「日本は最低賃金を上げるべきだ」と話したことがあった。
その時に昔の“フォード”と最近の“サンフランシスコ”の事例を挙げて説明していた。フォード・モーター社はご存知のように自動車を販売しているのだが、初期ユーザーの多くを獲得してしまい伸び悩んでいた。当時、フォード社の給与水準では自社の車を買えないほどの“高嶺の花”だったそうだ。
自社の従業員が買えないと一般に普及する車が作れないと考えた創業者のヘンリー・フォード氏は、同社の最低賃金を2.5倍に引き上げ、その結果自社社員が購入するとともに商品や価格も改良され売れ行きを伸ばしていったという。
それ以来、フォード社は商品一般価格と従業員に対する高賃金の両方を追及することを経営理念とした、という話だった。
また、シリコンバレーに隣接し、Twitter社も移転してきたサンフランシスコは、多くの企業を誘致するために様々な施策を実施している。その中で“最低賃金(Minimum Wage)”を2018年7月までに15ドルに引き上げるとの条例を2014年に策定した。これによりいくつかの効果があったという。
サンフランシスコ・シリコンバレー周辺は地価が高騰しており、生活コストが高い地域だったのが、最低賃金を上げることで人を呼び込むことができた。また、最低賃金が上がることにより街全体の可処分所得が上がり、波及効果として失業率や犯罪率も改善し、観光客や出張客も増えたという。
フォード・モーターの創設者ヘンリー・フォード(1863~1947)
この二つの事例を紹介してコトラー教授はWMSで「日本も最低賃金を1500円程度まで上げるべきである」と提言した。
顧客獲得から顧客創造へ
前々回のテーマである「需要と供給のマッチング」や前回の「所有と利用」に関しては、どちらかというと既存の顧客の獲得という側面が強いが、賃上げに関しては“顧客の創造”という側面が強いと考えている。
順を追って見ていこう。
まず、新しい価値を求めるターゲット層向け商品を開発し、適正価格を設定して、(フォード車を)入手する利便性を高めることで潜在顧客が開拓されていく。
しかし日常消費財でなければ普及とともにその顧客層とニーズは枯渇してしまう。そこでフォード社は新しい製品(より経済的な車)を開拓し、賃上げで新しい顧客層(潜在的な車オーナー)が生まれてくる。
特にフォードの場合には自社製品を自社従業員が購入するので、製品の改善や他者に対する推奨といった効果も生まれ、大きく製品とその価値、普及による新たな顧客層と推奨社が生まれ全体が加速的に拡大することが期待される。
それを図式化すると下のようになる。
今の時代は、新しい顧客層や需要の創造、それを加速するソーシャルメディアや推奨者(アンバサダー)の施策が従来より低いコストと早いスピードで実行可能だ。次回は“ソーシャルメディアによる自己実現の深化と国際的な価値創造”に関して紹介したい。
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