4月24日に行われた日本マーケティング協会主催の一般社団法人デジタルシネアド・コンソーシアム(DCAC)設立発表記念セミナーにて、パネルディスカッションと講演を通じて、いろいろマーケティングの変化に関して考えさせられることがあった。
(左から)CDO Club Japan 代表 加茂純氏、中央大学ビジネススクール教授/DCAC代表 田中洋氏、資生堂ジャパン メディア統括部長 小出誠氏、江端氏(筆者)、日本マーケティング協会 渡辺養一氏、シネブリッジ常務取締役 立花徹也氏
「囲われた」観客に向けたシネアド市場が世界で成長
シネアド(映画館広告)を扱うシネブリッジの立花徹也氏は、米国で5.8%増、英国8%増、イタリア6.9%増(ともに2016年)と、海外で堅調な伸びを見せているデジタルシネアドの市場動向について説明した。海外ではクロスメディアの施策の効果がデータで証明され、ブランド認知や好意度、購入意向などあらゆる指標にプラスの効果があるほか、最近の日本の調査でも広告の受容性が高いチャネルであると説明。それが協会設立の背景にあるという。
また中央大学ビジネススクールの田中洋教授は、シネアドは「囲われ度(Captive=キャプティブ)」が高く能動的視聴をする消費者に向けて接触できる機会として貴重なものであり、そのため各種の効果があるのではないかと説明した。筆者もその通りだと思う。皆さんも、映画が始まる前の広告や予告編を暗い館内で息を飲んで観た経験がないだろうか。そして、それは決して観たくないものという意識ではなく、映画本編の予行演習のごとくその内容を受け止めているのではないだろうか? すなわちシネアドは「映画を観にいく」という「コト消費」の経験の一環として消費者に受け入れられていると考えられ、シネマ用にカスタマイズされたもの、あるいは提供する世界観が映画本編と近ければなおさら受容性は高くなると考えられる。以下に田中教授による、媒体別の特徴を示したチャートを添付する。
このカンファレンスで、立花氏がシネアドの検証実験を日本で行った際の結果を発表している。商材は高関与で機能性を重視する車からVOLVO「XC90」、同じく高関与だが情緒性を重視する化粧品から資生堂「マキアージュ」、低関与でも機能性を重視する食品から大塚製薬の「ファイブミニ」、低関与で情緒性を重視するボディウォッシュから花王の「ビオレU」を題材として、テレビCM、シネアド、テレビCM+シネアドをコントロールグループをつくって計測した結果、ブランド再生(第一再生)、ブランド属性理解、態度変容ともにテレビ広告+シネアドの効果が認められたということであった。興味のある方は、一般社団法人 デジタルシネアド・コンソーシアムのホームページに調査結果が公開されているのでご覧いただきたい。
すべてのマーケティングがサブスクリプション型に!?
続いて、筆者がマーケティングの変化と動画広告の効果検証に関してプレゼンテーションを行った。FMCG(Fast Moving Consumer Goodsいわゆる日用消費財)はもともと店頭で頻繁にブランド選択が行われるジャンルであり、それに応じたブランディングや広告活動が行われていた。その焦点はいかに店頭などで同一カテゴリーの商品の中から選んでもらうかであり、あるいは店頭での良い陳列場所、面積を獲得することにあったといえる。そして消費者は比較的短期間のうちに購入の選択を繰り返すことになる。
しかし、最近その傾向も徐々に変化しつつある。例えばAmazon のDashボタンを持っている人は自宅でその商品がなくなりそうになった時に再注文するが、その間にブランドスイッチは起こりにくい。さらに最近はFMCGにても定期購入(サブスクリプション)を勧められる場合が多く見られる。その場合は定期的に送られて来るために、特定ブランドを購入するという判断が長く続くようになる。この変化はマーケティング視点で非常に大きな意味を持つと筆者は考える。
サブスクリプションになるとマーケティングはどうなるのか。まずは1回の購買決定で得られる収益が大きくなるために、獲得にかけられる単価が上がるのである。また、ブランドを継続的に利用してもらうためにはよりインパクトの大きい方法で消費者をブランドに向けることが必要である。そこで動画、さらにはキャプティブな空間で捕まえられるシネアドなどが有効に作用すると考えられる。皆さんも定期購入を促す方法としてテレビショッピングなどを見かけるのではないだろうか?
動画の視聴“質”や“効果”を計測する方法が進化
携帯でも動画を活用した広告手法が広がっているが、このような動画広告を計測する手法も広がっているのでその事例を二つほど紹介したい。
一つ目が視聴“率”ではなく視聴“質”をAIによって計測するTVISION INSIGHTS社である。同社は国内に800世帯以上のモニターを有して、その家庭にあるテレビにセンサーを設置し、独自の人体認証技術がその家庭の統計化されたデータをリアルタイムに送信するシステムである。テレビの上部に設置されたセンサーの画像を解析してどのような人(年齢・性別)がどの場面でテレビを注視し、どのような感情を持ちあるいは見ていなかったかなどを解析するというのである。それらをVI値 (Viewability Index) と AI値 (Attention Index)という指標に変換し計測する。
センサーから送られてきたデータと実際に見ていた場面を照合することにより、番組やテレビCMのコンテンツの視聴“質”を解析することができる。特にテレビCMは多くの回数放送されるため、番組と比べかなりのサンプル数を得ることができるので有効な指標が得られる可能性が高いという。上の表で見られるように、コンテンツの毎秒の指標がわかるので今後のコンテンツの改善策に使うことも可能であろう。現在はテレビから始まっているが、携帯の画面や映画館などでも計測することは理論的に可能なため今後の拡張が楽しみである。
さらに、動画広告を見た効果検証も色々行われている。動画広告配信プラットフォームであるUnruly社では動画の感情分析や生体認証技術、音声検査手法などを用いた動画コンテンツ評価ツール「アンルーリーEQ」を提供しており、ネット動画の視聴で購入意向や視聴後の行動に大きな変化が起こるという結果が多く出ているという。このような手法を利用すれば、動画コンテンツが生み出す感情の種類、強度を把握し、広告キャンペーンの効果を事前に予測することが可能になり、それがブランド・イメージに合致したものであるかについても検証できる。
動画の活用を含むIMCを実施している資生堂の事例
最後に登壇した資生堂ジャパンの小出誠氏による取り組みを紹介したい。下の図を見ていただきたい。メディアの役割は、2000年代のPC時代と現代のスマホ時代では大きく変わっているという。PC時代の認知獲得はテレビ・新聞・雑誌がメインであったものが現在ではテレビとデジタルがメインになってきて、他のメディアは部分的な役割にとどまっている。興味に関してはすべてのメディアを活用しているがPC時代は入っていなかった「デジタル」が入ってきている。理解に関してはスマホ時代になって従来の店頭・雑誌・デジタルに部分的にテレビが加わり、トライアルは店頭と雑誌から店頭とデジタルに移り変わっている。また特にシネアドは、最近はテレビで捕まえにくい若者に認知させる方法として注目しているということであった。
さらに小出氏は流通の商談に活用するために、テレビとデジタルの共通指標の必要性を提唱した(下図参照)。民放公式テレビポータル”TVer”やサブスクリプション型動画配信サービス”SVOD”(Subscription Video on Demand)の普及やデジタルの進化を背景に、メーカー側ではターゲット顧客に訴求する最適なプランをつくっているにも関わらず、デジタル施策との共通指標がないために流通との間で認識のズレが生じてしまっているというのだ。日本アドバタイザーズ協会(JAA)のデジタルメディア委員長でもある小出氏は「これはJAAに加盟する消費財メーカー共通のテーマである」と述べている。店舗側にとっても、最適なマーチャンダイジングを行う上で重要なことであるはず。早期の認識の共通化が望まれる。
コラムとしてもかなり長く多岐にわたる内容になってしまったのであるが、まだここでは書ききれないほどの示唆があったがそれは別の機会に委ねたい。
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