本コラムは前回の「AISASモデル」は、AI(人工知能)時代にどう変わる?の続きで、次世代マーケティングプラットフォーム研究会第8回総会のパネルディスカッションを取り上げたものである。
本研究会はアドタイのこちらの記事がきっかけでできたFacebookグループで、参加者はもうじき4500人を超える。今回の総会で、基調講演とパネルディスカッションおよび特別講演の参加申し込みは185人を数えた。
<第8回総会式次第>
キーノートセッション:~人工知能は私たちを滅ぼすのか~
「人工知能は私たちを滅ぼすのか」著者 IT製品開発マネージャー 児玉 哲彦 氏
パネルディスカッション:
電通 イベント&スペースデザイン局 エクスペリエンス・テクノロジー部 シニア・マネージャー 日塔史氏
リクルートホールディングス Recruit Institute of Technology推進室 室長 石山洸氏
Gunosy 代表取締役CEO 福島良典氏
日経FinTech編集長 原隆氏(モデレーター)
特別講演:事例紹介 ロボホン
シャープ 通信システム事業本部 Tリーダー 景井美帆氏
現在は第3次AIブーム
モデレーターの原氏はまず、現在の状況について「現在は第3次AIブーム」と表現した(筆者注:第1次はコンピューターが発明された1950年代で1956年のダートマス会議で初めて人工知能という言葉が使われたようだ)。第2次の1980年代では日経BP社が『日経AI』という雑誌をかつて発行していた(1986-92年)ということで、今回は2013年頃から本格化してきた第3次ブームということである。またFintechの分野ではユーザーのインターフェースやロボアドバイザーという分野が出てきており、実感できるAIブームということである。
広告業界の大変革~人を動かす次世代エージェントとは?
電通の日塔氏は、日本広告業協会第45回懸賞論文で金賞に選ばれた「AI革命の『大分岐』で広告業界が動く」を披露し、広告業に及ぼすAIの影響について述べた。まず、広告業界が技術の進化によって発展した様子を「印刷技術→新聞・雑誌」「放送技術→ラジオ・テレビCM」「インターネット通信技術→ネット広告」と進化してきたとし、日本の場合、テレビの広告の方がデジタルと比べプレイヤーが少ないので儲かる構造であり、広告会社はデジタルが成長しても収益を上げづらいとした。
また、世界的には検索広告をグーグルが寡占しているために他のプレイヤーはデジタル広告の収益を得ることができなかったとしている。ただし、今後AIにより「蒸気(10世紀)」「電気(19世紀)」「IT(20世紀)」「AI(21世紀)」という第4次産業革命により指数関数的に経済成長が見込まれる可能性があるということであった。
現在のアドテクの主流は過去のデータ分析による最適化(欲求内在型の供給最適モデル)であるが、この場合はあくまでも過去の最適化であり、縮小均衡にならざるを得ない。しかし、現在はあらゆるデバイスにセンサーが搭載され、そのデータがクラウドにインプットされ、AIを用いた未来の需要の推論と創出(欲求外材型の需要創出モデル)への転換が可能としており、それが実現すれば広告により大きな経済が生み出せるのではないかということである。
今までは最適化を計算して供給の効率を追求していたのに対して、“欲しい”という“欲求 (Desire)”をコントロールし需要を喚起しようというものだ。そのAIを搭載したエージェントがデータで学習し、メンタリストのように人間の欲求を読み解きコントロールできるようになると大きな市場が待っているということである。確かに、これはマーケティングにより新しい市場を創出することになりAIにて次世代エージェントが実現可能かどうか今後注視すべきであろう。
シンギュラリティから個人の能力に合わせたマルチラリティへ
リクルートの石山氏は、人工知能が不完全な社会を補完するのではないかと考えている。活版印刷技術によって聖書が印刷され、識字率が上がり、キリスト教もカソリックだけではなくプロテスタントが派生した歴史を踏まえ、デジタルレボリューションも活版技術のような変化を起こすという、米計算機科学者のアラン・ケイ氏の言葉を紹介した。
石山氏がリクルートに入ったのも人工知能、インターネット、コンピューターサイエンスなどデジタルな革新が見えたためであり、その目的は入社して10年目に人工知能の研究所を設立することで実現できたとのことであった。
リクルートの人工知能研究を行うRecruit Institute of Technology
リクルートは2020年に人材ビジネスでグローバルNo.1、2030年にその他のビジネスでもグローバルNo.1という目標があった。最近はコードを書けない人でも機械学習やデータサイエンスができるようになり、今後は一人ひとりが自分の好きな人工知能がつくれる時代になってくるという。そうすると世の中にダイバーシティな価値観が生まれ安定してくるとともに、一人ひとりにシンギュラリティ(人工知能が人間の能力を超える)が起こるマルチラリティが実現する世界が訪れるのではないかと分析している。
モデリングのパラメーターに支えられたキュレーション技術で売り上げをアップ
Gunosy(グノシー)の福島社長は学生時代データマイニングの研究をしており、その一環としてグノシーを学生時代に立ち上げ、そのまま事業を継続している。グノシーはユーザーから見ると「ニュースアプリの会社」であり、投資家や広告主、広告会社から見ると「広告の会社」である。それは売り上げの100%を広告が占めているからであるが、実は自分たちでは「コンテンツを正しく評価する仕組み」の会社であると考えているという。そしてそのコンテンツを正しく評価する仕組みを通じてサービスを行っているのである。
福島氏はコンテンツの評価の手法を「おいしいカレーライスを作る」プロセスに置き換え、レシピ=アルゴリズムとしたうえで解説した。レシピの要因や変数を変化させることで学習し、一番多くのユーザーがおいしいと感じるカレーのレシピを素材や調理方法を試行錯誤しながら作っていくのに似ているということである。AIは勝手に何かをするものではなく、モデリングのようなプロセスを経て実現されるものであるという考え方だ。また、計算力(CPUなど)とデータ量が多くなったから実経済として利益が上がってきているので現在のAIブームが起こっているのではないか。実際にグノシーもアルゴリズムによりユーザー数や滞在時間を伸ばしているので広告の売り上げが上がっている(2016年度は46億円予想)ということである。
ロボホンはAIを技術は使うがAIをそのまま搭載しない

(注:実際のロボホンの発話とは違う場合があります)
パネルディスカッションの後、シャープの景井美穂氏が特別講演としてロボホンとAI(人工知能)について紹介した。ロボホンはシャープが発売した世界初のロボット型携帯電話である。
開発時に景井氏が意識したことは、タイミング良くユーザーの好みに合わせた情報提供でサービスを引き込むプラットフォームにしていくということ。例えば、持ち主がイタリアンが好きだということを覚えた際に外出先でイタリアンの情報を提供するというように人力で学習するということである。
景井氏はロボホンにはAI技術が搭載されてはいるものの、人の対話内容にはAIを直接は使わないことにしたという。これはテスト時のラーニングが生きている。直接使うと「勝手に類推されると気持ち悪さが出る」「外れたことを言われるととたんに醒めてしまう」という経験から来ているということである。
読者の中で覚えている方もいると思うが、マイクロソフトがTayという人工知能をTwitterで公開したところ、意図しないことを話すようになり2日でアカウントを中止したという事件があったが、そのような懸念もあったのであろう。
したがってロボホンはユーザーの問いかけに対する正しい回答を半自動的に学習していき、ユーザーが手動で学習させたことをもとにロボホンが進化していく方法(AI×人力)でロボホンを進化させていくことを選択したということである。

AI(人工知能)の知識は進化しており、単純な知的作業などでは人間よりはるかに効率的に作業ができることから、ある程度の仕事は取って代わられてゆくことになるであろう。しかし、分野によっては人間を超えるシンギュラリティは実現しないかしてもはるか先のことになるのではないだろうか。いずれにしてもAIと上手く付き合った上でよりよい生活を実現するためにあらゆる側面で活用されていくことを願っている。
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