パッケージも自社流通網も“Owned”メディア
前回紹介した「リキッド・アンド・リンクド(Liquid & Linked)戦略」は非常に多くの反響をいただいた。今週は先週に続いて、4月6日にニューヨーク(Ad Age Digital Conferenceでコカ・コーラ本社のIntegrated Marketing Communicationsのトップ、ウェンディ・クラーク氏によるスピーチ)で紹介された4つのメディアの考え方を紹介したいと思う。
「リキッド・アンド・リンクド戦略」はこれらの4つのメディアの特性をとらえ、きちんと消費者にブランドの「Story(物語)」を届けるために必要なものである。その4つのメディアは日本でよく言われているトリプルメディア(Owned, Earned, Paid)に「Shared」メディアが加わったものである。
まず“Paid”メディアであるが、これはご存知のように購買できるメディアである。ブランドはそこで流れるメッセージをコントロールすることができる。クラーク氏は国によって事情の違いはあるものの、Paidは依然最大の投資を続けるべき非常に重要なメディアであるとしている。一方で、それは同時にイノベーションが必要な領域であるとも話している。うまくいった事例をより良くしていくなど、新しい活用方法を探さねばならないのである。
次に“Owned”メディアであるが、これはPaidを除いて自らコントロールできるものは何でもこの範疇に入る。まず思い浮かべるのはインターネットや携帯の自社サイトであり、これは間違いなくOwnedのひとつの代表であろう。しかし、自分でコントロールできるものはほかにも多数あるのではなかろうか。クラーク氏はまず、その筆頭に製品のパッケージを挙げる。パッケージをうまく活用することで、製品の特性だけではなく、ブランドのストーリーを広めることができる。生産と在庫の調整などは必要であるが、季節やイベントに合わせたストーリーを製品パッケージで展開することができれば、より消費者に受け入れられやすいはずだ。
また、自社流通を持っている場合にはそれらもOwnedに含まれると考えられる。クラーク氏は、コカ・コーラの場合には自動販売機や製品を運搬するルートトラックなども活用しなければならないと強調する。さらにその会社の従業員も重要な媒体であると考えられ、従業員がどのようにブランドストーリーの語り手になるかということも考慮しなければならない。通常のキャンペーン展開ではインターネット以外のものがリンクしていない場合も多く、プランニングの方法も検討しなければならないだろう。(次ページに続く)
今後も積極的な関与が求められるEarned、他社との協働で進めるShared
次に“Earned”メディアであるが、このメディアの中ではブランドが関与していようといまいと、常に会話が発生している。そこで出てくるのが「リキッド・アンド・リンクド戦略」の中でもDistributed Creativity(拡散されるクリエイティブ)というコンセプトである。先週のコラムでも紹介したが、Sharedメディアではユーザーに生成されるコンテンツのほうがはるかに多く、効果的である。ブランドが自ら発信するImpressionより、ユーザーが自ら発信するExpressionの方がはるかに重要なのである。
今までもユーザーはブランドやキャンペーンに対する意見を持っていたが、ソーシャルメディア(≒Sharedメディア)の登場でそれを表現しやすく、そしてそれが今までよりはるかに広がりやすくなっている。ブランドのストーリーを消費者が自ら発信して伝えてくれる状況を生み出せればこんなに効率的なことはない。企業サイドも自らコントロールできないとはいえ、ユーザーの考えに影響を与える情報を提供したり、Expressionするツールを与えたり、広まりやすいコンセプトを考えることはできるであろう。それがリキッドであればより広まり、リンクドであればよりブランドのメッセージに近いものになるはずだ。
クラーク氏によると今後、ブランドは“Earned”メディアに積極的に関与していき、消費者の声を直接聞かねばならないだろうと強調し、英国のソーシャルリスニングを通じてのファン獲得の事例を紹介している。このように一人をファンにすることは重要であるが、それはExpressionがその人のネットワークに広がっていくことがあるからである。これからはどれだけブランドのファンを増やすことができるかということがEarned上のポイントとなろう。
最後に新しく出てきた“Shared”メディアであるが、これは他社と共同で運営するものということであるようだ。たとえば流通の店内で展開される広告は、単独で行っているものではないのでSharedと定義付けている。このプレゼンテーションでは触れられていないが、例えばスポンサーシップやライセンスグッズなどもこの中に入ってくるであろう。クラーク氏によるとSharedメディアはインテグレーションすることが重要である。というのも、得てして購買の現場であるお店の外側ではすばらしいストーリーを展開しているのに、実際に購買される現場では何も行われていないケースが散見されるからである。実際の購買が行われる店内でのアクティベーションは非常に重要であるが、プランニングの段階で忘れがちになるので、敢えて既存の3つのメディアに入れずに別にしたという風にも考えられるのである。
2週に渡って紹介した内容をまとめると、メディア環境の変化によりマーケティング戦略を変更する必要が生じてきた。そしてそれぞれのメディアの特性を理解したうえで「リキッド・アンド・リンクド戦略」を実践し、あらゆる消費者との接点で有効にコミュニケーションを行う必要があるということだろう。このような考え方や実践例が今後も出てくるはず。その際にはこの場を借りて紹介したいと思っている。
江端浩人「i(アイ)トレンド」バックナンバー
- 次世代コンテンツのキーワード「リキッド・アンド・リンクド(Liquid & Linked)戦略」(6/1)
- 震災後の消費者意識の変化が明らかに(5/25)
- スマートフォン中心の経済圏が登場(5/18)
- 進む情報の透明化と企業の自社メディア活用(5/11)
- 震災後の情報リテラシーが向上した背景とその今後(4/27)
- 震災後のネット利用拡大から見えてきた3つのトレンド(4/20)
- 国内でもスマートフォン・タブレット端末向けの施策が本格化の兆し(4/7)
コメントを投稿するにはログインしてください。