2010年代は「ネットワーク化された消費者」を念頭に
世界のコカ・コーラのマーケターの中で、最近広がりつつある考え方のひとつに、「リキッド・アンド・リンクド(Liquid & Linked)戦略」がある。筆者も最近その理解を深めるにつれ、身内の言っていることであるということを差し引いても非常に優れた考え方であると思うので今回紹介したい。
以前より伝え聞いていたこのコンセプトを筆者が深く知るきっかけになったのは、4月6日にニューヨークで行われたAd Age Digital Conferenceでコカ・コーラ本社のIntegrated Marketing Communicationsのトップ、ウェンディ・クラーク氏が行ったスピーチ である。その内容がAd Age(アド・エージ)のホームページに掲載され、米国の知人がフェイスブックで紹介したことで知ることになり、感銘を受けたのでクラーク氏に直接依頼してそのプレゼンテーションを入手したからである。Ad Ageのレポートによると、クラーク氏はお金を出せば偉大なブランドを確立できる時代は終わり、クロスメディアに通用するリキッド・アンド・リンクド戦略に切り替える必要があると話したという。
この戦略が必要な背景として、メディアや消費者の多様化が挙げられる。下の図はそれを簡単に表した図である。1980年代には一つのマーケティングメッセージを作り、それをあらゆるところで展開した。90年代は消費者をセグメンテーションして各セグメントにあわせたメッセージを展開した。2000年代にはインターネットの台頭で、One-to-One(ワン・トゥ・ワン)マーケティングが活発になり、消費者は企業側がある程度その人の嗜好に合わせることを期待するようになって来たのではないだろうか。
そして2010年代に入り、ソーシャル・ネットワークが台頭してくると「ネットワーク化された消費者」ということを念頭に入れなければならなくなってきた。つまり、従来型のコンテンツやコミュニケーション戦略では、ネットワーク化された消費者にうまくメッセージを伝えることができない、ということがリキッド・アンド・リンクド戦略の背景にある。つまり消費者にリーチする方法が多様化した、そして何よりも消費者自身が情報の発信者になったことにより、コンテンツ&コミュニケーション戦略の変更を余儀なくされたのである。
消費者自らが行うコンテンツ化、企業も支援
まず、最初の要素、リキッドとはどのようなことであろう? 英語でリキッド(Liquid)とは液体の意味であり、金融でもLiquidityは「流動性」を表す言葉である。つまり、メッセージやコンセプトはどの媒体にでも波及するようにする必要があるということだ。したがって最近は動画を表す言葉のTVC(TeleVision Commercial)という表現をVC(Video Content)に変えているという。また、それは企業から発信するだけではなく、消費者が自らコンテンツ化できるように用意する必要があるのである。
というのも、たとえばこんな例がある。ある期間で動画サイト「ユーチューブ」では、コカ・コーラ関連の動画がおおよそ1億4600万回見られていたが、そのうちコカ・コーラ社が提供したものの閲覧数は2600万回に過ぎず、消費者が生成したものが5倍近い1億2000万回に上ったというのである。つまり、リキッドとは消費者がブランドに関して、会話やコンテンツとして広めることになるのである。クラーク氏は企業が提供したものを閲覧することは“Impression”と表現しており、それに勝るのは消費者が自ら表現する“Expression”であると言っている。これからはいかにExpressionされる“リキッド”なキャンペーンを実施できるか、ということになるだろう。(次ページに続く)
LikeよりShareを重視。ファンの購入意向は10倍、実際の消費は倍以上に
次に「リンクド」であるが、これは文字通りリンク、つまり何かとつながっているということである。まず何よりもキャンペーンは消費者のニーズとつながっていなければならない。これは従来日本でも実施されているクロスメディア施策、「続きはWebで」や「検索」といった手法もこの中に入るであろう。消費者はあらゆる媒体で情報をやり取りしているので、一つの媒体で完結せずに他にも波及しなければならない。つまりそのコネクションプラニングにはあらゆるメディアのノウハウを結集しなければならないのである。
例えばVCに検索窓をいれ、その検索からSEM/SEOを通じホームページへ誘導し、ホームページにあるソーシャルリンク:Like(いいね!)ボタンやツイッターボタンから内容がソーシャルにシェアされるという具合である。したがって今後のプラニングにはマスメディアのみならずインターネットやソーシャルメディアも含めた個別のそしてその組み合わせの深い知識が必要になるのである。
このようなリンクではフェイスブックのLikeボタンを押されるよりは、他の媒体に広めるShareという行為のほうが貴重だという。というのもそのほうが消費者の関与度合いが濃く、その消費者のソーシャルグラフにより広く波及すると考えられるからである。日本コカ・コーラでも独自にソーシャルメディアに情報を拡散できる“Happy”と“Share”ボタンを設置しており、消費者が情報や意見を拡散しやすくしている。クラーク氏が明かしたところによると、まだまだ初期のステージではあるが昨年末に英国とコロンビアで行った調査によると、ファンと呼べる人はそのブランドの購入意向が10倍高く、実際の消費も2倍以上あったという。
このようなリキッド・アンド・リンクド戦略の成功例として、クラーク氏は昨年のサッカーワールドカップでコカ・コーラが実施したキャンペーンを挙げている。まずはキャンペーンのコア・クリエイティブアイデアにあわせて、ゴールした後のパフォーマンスを取り上げた“What’s Your Celebration”というものを実施し、ユーザーが自らの喜びを表現することをあらゆる接点で展開しCelebration=Coca-Colaという構図を作り上げた。また“Wavin’ Flag”という歌をキャンペーンアンセムとして世界的に展開し、さらに日本など数カ国ではその国のアーティストとコラボレーションを行い、ローカライズしたのである。人々はワールドカップならではの喜びと曲をそれぞれの国のワールドカップの思い出と結びつけたのである。これはユーザーが自由に解釈し表現でき、あらゆる媒体で展開可能な、そしてどんどん広がってゆくキャンペーン正に「リキッド・アンド・リンクド」であったと言えるだろう。
次回はコカ・コーラで言われている4つのメディア:Owned Media, Earned media, Shared Media, Paid Mediaの定義とそれらを持つ意味、活用方法などを紹介したい。
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