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“755”のビジネスモデルは「これから」 まずはメディアとしての地位確立へ

前回のコラムが掲載された翌日の1月29日に“755(ナナゴーゴー)”の運営会社であるサイバーエージェント(以下CA社)の2015年9月期第1四半期(2014年10月~12月)の決算発表があった。結果はいたって好調で、売上高は634億円(前年同期比+45.1%)、営業利益125億円(同+194.0%)、経常利益126億円(同+193.6%)、四半期純利益63億円(同+207.8%)だった。

主な要因は、スマートフォンへのネイティブシフトという構造改革が功を奏し、インターネット広告事業、アメーバ事業とゲーム事業が大幅に増収増益を達成したことにある。この決算発表でCA社の藤田晋社長はコミュニティサービス“755”などへの追加出資を示唆し、年間の事業計画の上方修正は行わないとした。

セグメントで見ると“755”が属する「メディアその他事業」は“755”を含むコミュニティ事業及びエンターテインメント事業の立ち上げに伴う先行投資により、売上高は44億円(前年同期比+31.4%)、営業損益は4.9億円の損失計上(前年同期は0.7億円の利益計上)となった。現在“755”は広告などは一切入っておらず、課金サービスもないために筆者の取材に対して「売り上げはゼロ」で「ビジネスモデルは未定、これから」(藤田社長)ということであった。アプリのダウンロード数350万というスケールであれば、メジャーなニュースキュレーションアプリと肩を並べるレベルであり、当然広告収入などが見込めるのであるが、まだ導入されていない。

メディアとしての健全な成長を優先させる戦略

筆者が今回の一連の取材、そして過去のCA社コミュニティ事業の歴史を振り返ると、次世代トークアプリ“755”の成長戦略が見えてくると考えている。前回のコラムでも記したように“今までにないサービス”で“アメーバブログで培った監視サービス”を導入している点や、メディア属性を考えると“755”は“アイドルや有名人と疑似会話を体験できる公開トークアプリ”と位置付けることができ、いままでのSNS、コミュニティサービスとは一線を画している。

そのため、どの様な使われ方や、逆にトラブルが待っているかわからないということが言えるであろう。CA社の看板サービスの一つであるアメーバブログ(通称:アメブロ)”やコミュニティサービスであるアメーバピグもそれなりの手間ひま、年月をかけて育ててきた。筆者はそれなりのトラブルに遭遇した経緯のあるCA社が過去の教訓や経験を基にして、慎重に“755”を育てていると考えている。現在の“755”はアイドルを中心に集客しているために若年層が多いと予想され、したがってトラブルを未然に防ぐために24時間365日の数十名体制による監視体制を導入していることは前回のコラムで書いたとおりである。

また、上の2つの画像は“アメーバブログ”と“755”の2月9日午前のランキングを比較したものであるが、デザインは違うもののご覧のようにランキングの項目や体裁が非常に似た構成になっており、CA社のアメーバ事業のノウハウをふんだんに盛り込んだ内容になっているということができる。言ってみれば、“755”は非常に手間をかけて育てられている、箱入り娘のようなメディアであるといっていいのではないであろうか?

たまたま行き着いた、あらゆるビジネスモデルが可能なメディア・ポジショニング

筆者は“755”に関して現在はビジネスモデルが無いといっていたのであるが、ではそのポテンシャルはどうか。今までのCA社の事業とその他の現在メジャーなSNSのポジショニングをマッピングしてみたものが以下の図である。

前提として筆者は公開に近いメディアほど広告モデルが成立しやすく、プライベートなものに近いほど課金モデルが成立しやすいと考えているが、これは見る読者の広さ(公開)とサービスの深さ(プライベート)によるものといえる。

この様に考えると、“755”はちょうど“真ん中”に位置しており、この点でもユニークな今までにないメディアになる可能性を秘めている。中途半端なメディアに終わってしまう可能性もあるが、うまく運営すれば広告と課金のいいとこ取りができる可能性を秘めており、どの段階で収益化に踏み切るのかということが注目すべき点である。またこのようなポジショニングは当初から狙っていたのではなく、「スマホネイティブな公開トークアプリを追求したら行き着いた結果。世界でもこのようなアプリはないのでは?」(堀江貴文ファウンダー)という。筆者もインターネットの世界ではこのような姿勢が非常に重要だと感じており、ユーザーの動向を分析し次の施策に反映させるPDCAをいかに早く回し、新たなA/Bテスト、改善策を導入するかという点がこのような汎用サービスの成長のカギであると考えている。

では、実際にビジネスモデルを構築する際にどのようなものが可能か考えてみた。

広告モデル

一般的なインターネットサイトやアプリで実施されている広告

•一般的な広告:バナー広告、テキスト広告、アドネットネットワークなど
•ターゲティング広告:上記のユーザー属性や行動履歴による広告の出しわけを行う
•検索連動広告:検索ボックスを設置して検索の結果に応じた結果を反映・表示する
•成果報酬型広告:クリックや遷移先での行動(登録、課金など)に連動した広告
•タイアップ広告:記事や書き込みにフォーマットを似せた広告。ネイティブアド含む
•特集ページ:ある商品、サービスに特化した期間限定の告知ページを“755”内に設置

企業課金モデル

特定企業に対して提供される、基本は広告モデルに近いがより、カスタマイズされ、アクセスなどを保証するのではなく場を提供したり、媒体力をつけることも視野に入ることより別サービスとした

•企業アカウント:特定の企業、製品やキャラクターを公認し、ユーザーとやり取りできるサービス
•企業共同プロモーション:デジタルアイテム、“755”の課金アイテム、クーポンコードなどを景品とするプロモーションを実施することが可能なサービス

個人課金モデル

個人の課金方法を導入することが必要

•アイテム課金モデル:コミュニケーションアイテム(絵文字、スタンプ)など
•ステータス課金モデル:有名人に必ず返事がもらえる、抽選に参加できるなどファンクラブ的ステータスを取得できる
•コンテンツ課金モデル:特別なコンテンツ(映像、楽曲、漫画、写真集等)を販売するモデル
•クラウドファンディングモデル:ユーザーが製品やサービスを応援することができるサービス。CA社が実施しているクラウドファンディング(Makuake)との連動も可能

この様に現在実施されているビジネスモデルはほぼすべて展開可能でそれらの組み合わせも可能であるということになる。どのモデルをいつ、どのように投入して来るかなどはわからないが、難易度で比べると広告モデルがハードルが低いので最初ではないかと推測している。現在のユーザーとの相性でいうと企業、特に若者向けエンターテインメント系のコンテンツとの相性がいいので、CA社が導入しているサービスとのタイアップも登場するのではないかと考えている。

広告モデルや企業タイアップモデルを推進するためにはナショナルクライアントが安心して出稿できる安心感が必要だ。その意味でも現在は大事に育てている段階といえるのではないか。またいったん年末年始で終了したキャンペーンを同社がいつどのような形で再開するのかが見ものであり、筆者はターゲット層が時間的な余裕を持つ春休みゴールデンウイークに大型プロモーションのヤマがあるのではないかと推測しているのである。ユニークなポジショニングとポテンシャルを持つ“755”の今後に期待したい。

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