3回目となるカンヌ入り。すでに4日目で多くの表彰シーンを見てきたが、何となく違和感を覚えていた。それは筆者だけでなく、13年連続カンヌに来ている常連組やヘビーウォッチャーなども同様だった。
今年の変化について聞こえてくる声は以下のようなものだった。
「世界の仕組みを変えるソーシャルグッドのキャンペーンが受賞していない」
「昨年と比べるとなにか小粒な気がする」
「スタンディングオベーションが起きない」……
それに対する答え、とも言えるものは最後に紹介するとして、今回は筆者の専門分野であるサイバーライオン部門についてレポートしたい。
2016年サイバー部門の総括

審査員室。カンヌでは審査員による講評会も行われる
先ほど今年のサイバー部門を総括する約1時間のセッションが行われた。Inside the Jury Roomという名称で全ての部門で行われており、審査委員長と数人の審査員がその部門の総括をするものだ。透明性を担保するものであると思われる。審査委員長のR/GA New YorkのChloe Gottlieb氏、New York, MiriumのFrederic Bonn氏、 Googleの Ignacio Zuccarino氏が登壇した。
先ほど今年のサイバー部門を総括する約1時間のセッションが行われた。Inside the Jury Roomという名称で全ての部門で行われており、審査委員長と数人の審査員がその部門の総括をするものだ。透明性を担保するものであると思われる。審査委員長のR/GA New YorkのChloe Gottlieb氏、New York, MiriumのFrederic Bonn氏、 Googleの Ignacio Zuccarino氏が登壇した。
サイバー部門は今年3000本近いエントリーがあり、8日かけて審査したという。その数だけではなく、内容も加味した上で、今までで一番良かったのでないかと審査員のGottlieb氏は振り返った。3000本に及ぶ作品を審査するために、審査員間での“決め事”をつくったという。
Powerful idea:アイデアが素晴らしいこと
Technology embedded技術が包括されていること
Timelessness:本年だけでなくある程度の普遍性があること
Scale & Participation:幅広くユーザーが参加していること
といったことで、それは毎日増えていったという。
Gottlieb氏は「審査員がその表現などが理解できない場合でも、広がりを見せたキャンペーンは認めて評価した」と述べており、「世の中のデジタル化する中、サイバーという部門が必要なのかという葛藤もあったが、審査を進める途中で素晴らしい作品に多く出会い“Golden Age of Cyber”サイバーの黄金期である」と確信したという。
サイバー部門でグランプリを受賞した2作品
THE NEXT REMBRANDT
今年のサイバー部門の特徴を各審査員が話していたが、特に多彩なラインナップ、ピクセルレベルに落とし込まれたストーリーテリング、技術で違いを演出していた、8年前はバナーと広告ばかりであったインターフェィスが、スクリーン以外に拡大したことが挙げられていた。
グーグルのZuccarino氏は「グーグルのようなテクノロジーカンパニーもアイデアとストーリーが無いと消費者の心をつかめず、技術のための技術になる」と話し、MiriumのBonn氏も「Manboob (乳がん触診のキャンペーンで男性の乳房を使った作品)のような単純なアイデアは世界中に広まるための投資もゼロに近いが、ハリウッド映画並みの影響力がある」として、技術とアイデアが結びついた時に大きな変化が起こると強調した。
来年以降のトレンドを占う
審査員諸氏は来年以降のトレンド予想も話していた。VR(Virtual Reality=仮想現実)に関しては単純な作品は多かったが、ゴッホの作品並みのインパクトが無いと例えばジェットコースターの体験のようなものだけではだめだろうとコメント。むしろAI(Artificial Intelligence=人工知能)の活用がこれから主流になるのではないかということであった。
AIによる破壊的な創造性はまだその一端を見ただけであり、それこそ人類が見たことも考えたこともないものが出てくるであろうとのことである。また、サイバー部門は今後スクリーンから解放され、ありとあらゆるインターフェィスに拡張していくだろうということである。
触覚、聴覚、言語インターフェィスなど、人体がインターフェィスになることもどんどん起こってくるという。5年後にはキャンペーンではなく「インターフェィスされた人間を審査することになるかも知れない」と冗談交じりにBonn氏は話していたが、まんざら空想の話でもなさそうである。
今年から”For Good”の審査はチタニウム部門に集約
質疑応答では昨年のトレンドでもあったFor Good、世の中を「よくするキャンペーンが少ないのでは?」という質問が出た。審査委員長のGottlieb氏は次のように答えた。
「例えば難民救済に関する応募だけでも20作品以上あったのでむしろ増えている。ただし、その多くは悲観的なもので現実を表しているが解決方法を提示していない。受賞したUnFairytale(おとぎ話ではない)という作品は、その中でもテクノロジーを駆使して希望をもたらす可能性のあるものだった」として、「テクノロジーやプラットフォームの技術をハックして新しい解決方法を提示するものは今後も評価されるだろう」としてサムスンの胎内環境を再現するWombifies(胎内化)やMinecraft経由電話できる施策などを挙げていた。
その上で「For Goodのキャンペーンはサイバーではなくチタニウム部門に回すことになった」のでそのような施策はチタニウム部門で評価されるとのことであった。
この話を聞いた時に記事の最初に出た違和感の原因がつかめたのである。もともと“広告祭”という側面が強かったカンヌの受賞作の多くが非営利的なものになると、クライアントワークに対する評価が下がることを懸念したと推察されるが、いわば原点に戻る形となったのだ。
社会的な意義は大きくても経済的な意味が小さければスポンサーが問題と感じるのは当然であり、チタニウムに集約することいいおさまりではないかと筆者は評価している。最終日のチタニウムの発表はその観点で見るとまた違うものになるだろう。
コメントを投稿するにはログインしてください。