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クーポン共同購入サービスが流行する理由:2

クーポン共同購入型サービスが世界中で急成長している。創業2年で世界30カ国に進出し、売上高約300億円、利益40億円に至る急成長を遂げた米グルーポンを筆頭に、世界中で同様のビジネスモデルが成立している。日本でもテレビでCMを始めた「ポンパレ」(リクルート)やグルーポン・ジャパン、「Yahoo!共同購入」に出店した「シェアリー」や「日本初」を標榜するPiku(ピク)など群雄割拠である。しかも、日本でそれらのサービスが始まったのは本年の4月以降であり、上記の中ではPikuを除いてまだ半年にも満たない。

先週の記事では、従来コミュニティーのような深いつながりからツイッターなどのソーシャルを中心にしたゆるいつながりである「我々(われわれ)化」への変化こそが、これらクーポン共同購入型サービスの普及につながっているとの考えを紹介した。今回はその点をより深く掘り下げたい。

まず、クーポン共同購入サービスの流れを見てみよう。消費者は会員登録し、居住地域や性別を入力すると、地域に応じたクーポンが表示される。クーポンは通常、表示されてから24時間以内の販売であり、価格、割引率(通常50%以上)、取引成立最低販売数、最大販売数、販売条件(女性のみなど)のほか、販売の残り時間などが表示されている。

クーポンは原則ひとつの地域で1日1種類しか提供されず、会員は自分の好みのクーポンがあるかを毎日探すことになる。取引は最低販売枚数に到達しないと成立しないため、また販売時間が限定されているために、成立させたい顧客がクーポン購入の呼びかけをメールやソーシャルメディアを通じて行うという構図が生まれる。

そもそも、共同購入サービス自体は従来から存在していた。では、クーポンのそれとどう違うのか。

まずは「高い割引率」である。それを可能にした背景には、クーポン共同購入サービスで扱う商品が「物品の通信販売」ではなく、「店舗来店型サービス」が多いということが挙げられる。店舗来店型のサービスは顧客が予約して来店するまではコスト負担がなく、原価率が低い(すなわち割引しやすい)。

そして何よりも重要なのが「限定感」である。クーポンは1地域1日1種類に限定されており、販売期間が24時間に「限定」され、最低販売数と最高販売数が「限定」されている。そのため、情報を得た瞬間に行動しないといけないという心理に追い込まれるのである。そして早期の購入者はまだ最低販売数に達していないことから、不特定多数に購買を訴えるという構造につながる。(次ページに続く)

このようにクーポン共同購入サービスは、「高い割引率」というインセンティブをもとに、地域や時間による「限定」感を演出しているために、参加者が「我々化」しやすく、連帯感を持つまでのハードルが低くなっていると考えている。従来ソーシャルメディア上ではよく言われており、当サイトのコラム「高広伯彦の“メディアと広告”概論」でも高広氏が紹介している「Tribe:トライブ」という概念があるが、最初に定義したセス・ゴーディンの著(Tribes)の中で「Tribeにはリーダーが必要」と書かれており、「我々化」とは異質な気がする。というのもクーポン共同サービスによって形成される「我々化」は地域や時間が限定的であり、その内容には明確なリーダーが存在しないからである。

では「地域限定」の「お得な情報を発見」し「共有体験をするために情報拡散」をしたうえでその購入体験自体を「我々化」するというのは何に似ているだろう?

筆者は「突発的な祭り」ではないかと考える。通常祭りは周到に告知も含めて準備されるのであるが、知らない人同士でも踊りを踊ったり、またはその時間にその場でしか味わえない体験を共有する。つまり祭りはクーポン共同購入サービス同様、地域や期間が限定されるケースが多い。近所で祭りが始まれば自然と口コミが発生し、人が集まってくる。「近所で祭りが始まったから行こうよ」という文脈は「安い限定クーポン見つけたから買おうよ」という文脈に非常に似てはいないだろうか。

さらにいえば、その時に神輿(みこし)を担げなかったり、金魚すくいが混んでいて参加できなくてもさして気にしないのではないだろうか。つまりそれはあまり知らない人でも特に抵抗なく、しかもその後のつながりをあまり深く考えなくても比較的ゆるい人間関係の中で共有できる事柄ではないだろうか。そしてそのちょうどいい媒介として、特にツイッターのようなリアルタイムソーシャルメディアが存在してサービスを後押ししてゆくのではないだろうか。

筆者は今後も、このクーポン共同購入型ビジネスのようなゆるい「我々化」を中心としたビジネスやその構造を利用したマーケティングが数多く出現すると考えている。その背景には、ゆるい「我々化」がWebで成立しているからである。もうひとつ、こうしたビジネスの出現と成長を支える大きな要素としては、全国民レベルで支えるインターネットを支えるインフラ、例えば「光の道」構想も上げられるであろう。こちらも別の意味で注目していきたい。

江端浩人「i(アイ)トレンド」バックナンバー

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