ピコ太郎の『PPAP』が世界でヒットしており、話題になっていることは皆さんもうご存知だろう。本件に関する独自の分析が多く出回っているので、本コラムでは過去のヒットしたものと比較した上で、ヒットのパターン分析を行いたい。
『PPAP』の特徴はいくつもあるが、まず第一に言えるのは「『PPAP』は海外から火が付いたヒットを逆輸入した“きゃりーぱみゅぱみゅ”(KPP)と似たパターン」ということであろう。これは一体どういうことか解説したい。
世界の『PPAP』、火付け役はシンガポールのユーチューバー。 日本へはジャスティン・ビーバーが大きく影響。
『PPAP』に関してGoogle Trendsで“PPAP”の検索件数を調査したところいくつかの事が分かった。
【1】世界で拡散したきっかけはシンガポールのユーチューバー
世界的に『PPAP』に火が付いたのは9月24日で、Chee Yee Teoh氏というユーチューバーがビデオを公開したあとである。『PPAP』の検索数の伸びを調べても、9月24日以降に増加している。
世界でのPPAP検索回数 (8/25-10/26)
実は8月25日にアップロードされた公式チャンネルの画像再生回数が6,500万回 (10月25日現在)なのに対して、Chee Yee Teoh氏の動画は1億2,500万回(10月25日現在)と倍近い差をつけているのである。ちなみに筆者の調査によると、このChee Yee Teohという人物はマレーシア人で、本名はRaikcen Teoh、シンガポール在住の日本企業に勤めるセールスエンジニア(Product Marketing)である。
【2】日本で火が付いたきっかけはジャスティン・ビーバーのTwitter
日本で火が付いたのは9月29日以降で、ジャスティン・ビーバーがつぶやいてそれをメディアが取り上げたからのようだ。
日本でのPPAP検索回数 (8/25-10/26)
実際に9月28日(日本時間9月29日)に、ジャスティン・ビーバーがつぶやいたとされるキャプチャーがこちらである。(ちなみに現在は、ツイートは削除されている模様)
こちらが個人あるいはさまざまなメディアに取り上げられ、日本での検索数は伸びていったといえるのではないか? さらに面白いことに、この動画は公式チャンネルでもシンガポールのChee氏でもなく、“ペキン原人”と名乗るユーチューバーが9月17日に上げたものになっていることである。ジャスティンがどのような経緯で“ペキン原人さん”の動画を見つけたのかは非常に興味が湧くところではないだろうか?
日本では「海外で流行っているといった現象」がニュース化
この様に海外で騒がれている、あるいはセレブリティが好きということで広がって行くのは日本ではよくある現象でないだろうか? 自分の興味関心が「海外で流行っている」とか「セレブリティが気に入っている」といった現象がニュース化して興味を引き、国内で火が付くケースが多い。その意味で今回の『PPAP』ブームの火付け役はジャスティン・ビーバーがTwitterで『PPAP』を紹介したことがニュースで取り上げられた事が大きく影響していると考えられるだろう。
「ピコ太郎、米ビルボード・チャート77位 日本人26年ぶりトップ100入り」といったニュースも逆輸入され、マスコミをにぎわしていることはご存知だろう。しかし、「ピコ太郎が「ビルボード」77位に入るも米国ではまったくウケていなかった?」という記事も存在するように、現在では、ヒットは世界中の関心で測られていくようになってきている。
『PPAP』人気は台湾、インドネシア、香港、タイ、シンガポール等アジアが中心
このように海外から逆輸入により火のついた形の『PPAP』であるが、どこの国で流行っているのであろうか?
Google Trendsの国ごとの人気指数では、『PPAP』に一番関心が高く日本より先に火が付いたのは台湾であり、続いてインドネシア、香港、タイ、シンガポール、フィリピン、日本、マレーシア、ベトナム、韓国とアジア諸国での人気が高いことが見て取れる。この指標の詳細は明らかにされていないが、人口や検索数やシェアが影響していると考えられる。
PPAPの世界での興味関心度
きゃりーぱみゅぱみゅの人気も海外から
『PPAP』人気が海外から逆上陸してきたように、筆者はきゃりーぱみゅぱみゅが(以下“きゃりー”)海外から逆上陸してきた2011-2012にかけての事例を覚えている。かつてから女子高生などに雑誌モデルなどとして人気のあったきゃりーは、2011年の7月20日にiTunesでデビュー曲である『PONPONPON』を発売。その独自の世界観のあるPVをYouTubeで流していたところ、フィンランドとベルギーのチャートでランクインという快挙を達成したということであった。
しかし、日本では7月はあまり盛り上がらず、8月にミニアルバムのリリースと共に海外での活躍を紹介することで盛り上がりを見せてきたのである。ちなみに『PONPONPON』のオフィシャル動画の再生回数は現在1億回を超えている。
その後も活動を続け、話題性をキープしていたきゃりーだったが、『つけまつける』で国内ブレークするまでにはもう一つ大きな山場があった。2011年12月に行なった海外での初ライブで、この時は「きゃりーぱみゅぱみゅ、初の海外ライブに6,000人殺到」というニュース記事が出た。芸能界の世界的中心の一つであるロサンゼルスでライブを敢行し、その様子はインターネットでも中継されて話題となり、1月の新曲『つけまつける』の発売に繋がったのである。その後は名前の発音しにくさなどから、テレビ番組で取り上げられることも多く、知名度はますます向上し、現在ハロウィーンの曲などでもおなじみになってきている国民的スターである。
日本での検索回数 (2011/7-2012/3)
世界での検索回数 (2011/7-2012/3)
一方で世界での広がり方と比較すると、デビュー時に日本より早く盛り上がりを見せ、また、LAのライブ時の盛り上がりも日本より大きいことが見て取れるのである。
ここで、ピコ太郎(PPAP)ときゃりーの拡散に関して比較してまとめてみたい。
ピコ太郎(PPAP) | きゃりー |
発売前にYouTubeに動画アップ | 発売前にYouTubeに動画アップ |
台湾での検索数が増加 | 海外で再生数が多いと話題に |
シンガポールのYouTuberがピックアップ | iTunesランキング入り |
ジャスティン・ビーバーがツイート | 日本のメディアがピックアップ |
日本のメディアがピックアップ | LA単独ライブを開催 |
Billboardチャート ランクイン | 海外で話題 |
日本のメディアがピックアップ | 日本のメディアがピックアップ |
FacebookなどSNSでも動画が拡散 | 『つけまつける』発売 |
ブレークまでの期間:約2カ月 | ブレークまでの期間:約6カ月 |
時間軸や国は違えども、まずは海外で火が付き、日本のメディアが取り上げる事で逆輸入した事例としては似ているパターンではないかと筆者は考えている。
スピードの違いはコンテンツの内容や継続性などが関係していると思うが、その他にも類似点は多いのではないだろうか。
それは、見た目のインパクトとギャップ、音楽とダンス(非言語性)、分かりやすさ、真似しやすさ、ノリの良さ、そして多用されたP音(パ・ピ・プ・ペ・ポ)という言葉であると思うが、こちらの分析は次回に取っておきたい。
またデバイスやサービス的には、ピコ太郎の『PPAP』はスマートフォン動画時代のコンテンツ流通のトレンドを捉えており、これはスマートフォン静止画時代に女子高生の間から流行った「マカンコウサッポウ」と同じパターンであると考えるが、いかがだろうか?
スマートフォン上で真似することが簡単でインパクトのあるフォーマットが開発され、機器の進化により画像や動画の品質が担保されており、またネットワークやソーシャルメディア上で広がるインフラが発達してきたということが背景にあると考える。
企業のマーケターも、そのトレンドをうまく活用して広げる時代に入ってきているのではないだろうか?
『PPAP』ヒット要素分析第二弾はこちらから
>>『PPAP』に学ぶ!世界に拡散されるコンテンツのヒット要素分析(2)
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