世界では市場席巻するも国内は発展途上
最近弊社にくる取材や講演依頼のほとんどは、Facebook(フェイスブック)かスマートフォンに関する内容である。スマートフォンに関しては販売台数がそれ以外の端末を上回り、iPhone(アイフォーン)に加えてAndroid(アンドロイド)端末の新機種を各メーカーがこぞって投入するなど、市場拡大を裏付ける動きが顕著だ。自分の周りでもアンドロイド端末やタブレットをよく見かけるので、端末・通信を含むその経済効果は非常に大きなものであることが想像できる。企業担当者に聞いてもスマートフォン向けの広告には積極的に取り組みたいという人が非常に多い。
一方のフェイスブックは、成長しているもののまだ日本の大手SNSやツイッターと比べれば規模は小さいし、実名制というハードルに加えて利用者からも使いにくいという声が多い。しかし、インターネットの記事や書籍はフェイスブック関連の記事が読まれ、講演会などはこのテーマが多く人を集めているようである。
世界では、フェイスブックが席巻していることは間違いない。まず登録者数であるが、昨年6億人を突破し、すでに7億人になるようである。米国の登録者数は1.5億人を超え、人口の50%に達するといわれるほか、モナコ公国のように全人口の約94%が登録している国もあるようである。米国では広告予算の多くをフェイスブックに回すと表明している企業が多く、実際に多くの企業広告が実施されている。
また、チュニジアやエジプトのように、フェイスブックが民衆に力を与えて政変が起こった国があることからも、国をも変える力を持っていることは間違いない。現にフェイスブック、ツイッターは中国やベトナムなどでは利用が政府によって制限されているのである。そしてそのスケールの大きさが、国際化を加速する日本企業に受けているのであろう。色々な話を聞くと、フェイスブックを契機にインターネット関連業務の担当者の増員を果たしている企業が多いような気がするのも、世界的な影響力が経営上層部にわかりやすいからかも知れない。
ツイッターの次に来るのはフェイスブック?
現在コカ・コーラには、世界で一番のファン数を抱えるフェイスブックページがあり、その日本語版も6月14日に開始されたわけであるが、コカ・コーラそして筆者のフェイスブック経験はちょうど5年前の2006年の7月にさかのぼる。その時期は世界中のコカ・コーラでインターラクティブマーケティング(iマーケティング)の部署ができ始めたばかりであった。
そしてそれら世界中のコカ・コーラのiマーケターが一度に会する国際会議が、米サンフランシスコで2006年の8月に企画されていたのだが、その連絡方法にフェイスブックが使われていた。その時はまだフェイスブックは米国の大学生に利用が限られており、教育機関を意味する“.edu”のメールアドレス以外の登録を受け付けていなかったが、特別にこの会議の関係者以外は見ることの出来ないコカ・コーラ専用のセクションを作ってくれたのである。
世界のiマーケターはいくつかのグループに分けられ、各種連絡や準備に追われ、私もそのリーダーの一人に選ばれてフェイスブックを使って各種連絡やフィードバックを行っていたのである。よく考えるとその時期が今も含めて一番フェイスブック利用していた時期かも知れない。その会議は盛況に終わりその後もしばらく連絡をしていたりしたが、それも徐々に少なくなって、昨年位までは海外の知人より近況が来るなど以外はほとんど忘れていたといったところだ。
話を戻すと、現在の盛り上がりの一環として、フェイスブックはツイッターというある程度日本人に受け入れられたソーシャルインフラの次にくるものととらえられているのではなかろうか? 確かに昨年はツイッターに関する講演が実施されたり書籍が発行されたりしたので、それらに参加したり本を読んだ人の多くはフェイスブックに興味を持ったとしても不思議ではない。
現状として、ツイッターはブログと並び芸能人などが多く活用しており、そのつぶやきがスキャンダルを暴露したりするケースも多く出てきているが、そのような事例はまだフェイスブックでは出てきていない。例えば、先日東京高等検察庁へ出頭した堀江貴文氏は、かつて人気であったブログから情報発信の中心をツイッターとメルマガに変えており、ツイッターのフォロワー72万人と膨大なフォロワーを有しているのであるがフェイスブックの友人数280人とあまり積極的に活用していないようである。
規模感はまだ不足 日本独自の発展を遂げるか
フェイスブックの使われ方も国によって大きく違うようである。例えば日本ではフェイスブックのビジネス活用が多いので、就業時間中に使っていても情報収集を行っているととられる場合も多いのであるが、個人のプライベートネットワークで日本の携帯メールのように使われることの多い海外では、仕事をサボっていると思われてしまうようである。
実際に筆者のフェイスブックの友達申請のほとんどは海外も含め仕事関係であり、参加しているコミュニティも仕事関係の情報交換が主となっている。プライベートの連絡のほとんどはPC・携帯のメールやミクシィであり、用途が完全に分かれる形となってきている。
色々書いてきたが、結局筆者は現段階のフェイスブックはかつての「黒船」ではないかと考えている。ペリーが来航したときは、正体の判らない日本中にその噂が広まって行ったそうである。世界中を変えたソーシャルネットワークの代表としてフェイスブックは従来のSNSと違うひとつのカテゴリーを形成しているのではないかと考える。
実感として広告の活用にしても企業ファンページにしてもまだブログや日記、ツイッターといった媒体に比べ、まだスケールや盛り上がりに欠けている気がするのは筆者だけであろうか? 先日社内コミュニケーションのインフラとしてフェイスブックを提案したが、まだ利用者が少なく利用が難しいという意見が多く延期することとなった。しかし、黒船の時のようにフェイスブックの本質である「実名制」が普及し、フェイスブックと相性の良いスマートフォンが日本で普及し経営層の理解を得れば黒船当時のようにその後の日本社会を劇的に変化させることが起こってくるのかもしれないと考えており、その時期がいつ来るのか注目していたい。
江端浩人「i(アイ)トレンド」バックナンバー
- 相次ぐサービス導入で「入札型広告」はどこまで普及するのか(6/15)
- リキッド・アンド・リンクド戦略を展開する先は「トリプルメディア+1」(6/8)
- 次世代コンテンツのキーワード「リキッド・アンド・リンクド(Liquid & Linked)戦略」(6/1)
- 震災後の消費者意識の変化が明らかに(5/25)