モバイルアプリの使われ方に日米の差
6月20日から22日まで、米国オーランドで開催されたNielsen Consumer360というカンファレンスにスピーカーとして招待され、参加した。このカンファレンスはマーケティング全般をテーマとしていたが、内容はイノベーションとデジタルが中心であり、この分野への関心と活用度は日本よりも大きいという印象を受けた。筆者の登壇したモバイルアプリのセッションも、カンファレンスに参加した人のうち4分の1が出席するなど関心の高さがうかがえた。その中で発表されたデータでは、米国のアンドロイド携帯のユーザーは実に、携帯に接しているすべての時間のうち56%をアプリに使っているというものだった
一般に、アプリをダウンロードするきっかけは家族や知人の推薦が多いとのことであるが、企業のアプリが消費者に認知されるためには広告宣伝を行わねばならないという。しかしながら上記の傾向は日本には必ずしも当てはまらないと見るのが妥当であろう。
その理由のひとつにはインターネット接続料金の壁がある。日本では月額定額料金が浸透しているのに対して、米国では従量課金が中心であるので、アプリを最初にダウンロードするときに多くの通信量が発生するものの、利用時には通信負荷が少ない。日本ではブラウザーで通信を繰り返しても料金が発生しないため、アプリを提供するよりも企業ページでアプリと同様のサービスや情報発信を行うという選択も十分ありえるのではないか。実際に、日本では従来より携帯でもアプリの機能がついているが、決済やサービス以外ではサイトへの接続の方が多く使われているというのが実情ではなかろうか。
テレビとの連携に高い関心 「デジタル偏重」への警鐘も
米国でもテレビとネットの融合は非常に関心の高い内容と見られ、関連するセッションが複数見受けられた。その中で一つ大きく日本と違うと感じられたのはツイッターの重要性である。たとえば今ツイッターで流行っている内容を示すTrending Topicsというものがあるが、米国ではここに載ることが重要といった風潮があるようである。テレビでは多くのフォロワーを抱えている番組出演者が番組開始前や放送中にツイートすることで、Trending Topicsに出てくると番組の視聴に影響があるようである。実際に ニールセンの調査 でも、ツイッターユーザーの76%がテレビ局のサイトも訪問しており、番組の視聴率とツイート数にはかなり相関が見られるということだ。
また、米国のテレビ広告をはじめとする広告にはツイッターのハッシュタグ(#cocacolaのようにキーワードの前に#をつけて検索しやすくするツイッターの技術の一つ)を広告に挿入するケースが多くなってきているということである。日本では「検索窓」を入れる広告が多いのであるが、米国ではハッシュタグが主流になりつつあるようだ。また、モバイルを通じてフェイスブックがテレビと連動するようになれば逆に視聴が減っているテレビの視聴が再び増えるのではという期待もあるようである。
上記のようにデジタルへの期待が高い中、それだけに頼ってはいけないという声も多く聞こえた。確かにデジタルの活用は増えており、他の手段ではリーチできない消費者層も増えている一方で、デジタルではリーチできない消費者が多く存在することも否定できない。登壇した多くの流通系のスピーカーの多くは「テクノロジーではなく消費者を見失ってはいけない」と警鐘を鳴らしていたのが印象的で、とても本質をついたポイントであろう。
そしてリアルの店舗との融合という意味では個人的にはロケーションベースマーケティングとクーポンを組み合わせたアプリであるShop Kickというサービスに注目したい。このようなアプリで多くの消費者の消費行動に影響が出ればこの分野への投資が一気に高まる可能性があるからである。今後の動きに引き続き注目したい。
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