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「半沢直樹」のヒットの背景を考えてみた(2)

随所に見られる「時代劇スタイル」

前回のコラムはお陰様で500を超える「いいね!」をいただき大きな反響があった。またドラマ「半沢直樹」(TBS系)も毎回視聴率の最高記録を更新し、8月11日放送分の第5話では29.0%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録し(初回19.4%、2話21.8%、3話22.9%、4話27.8%)、ますます社会現象化してきているといえるのではないだろうか。

ところで流行語の「(XX)倍返し(だ)」と、先日芸能プロダクションへの所属を決めた林先生こと林修氏の「今(いま)でしょ」の検索件数を比べてみると、ちょうど、逆転したということが見て取れる。テレビCMの影響などからか、「今でしょ!」のピークの方が高いのであるが、今後「倍返し」がどのくらい伸ばすことになるのか楽しみだ。

話を戻して、ヒットの背景として今回挙げるのは「ドラマ構成スタイルとキャスティング」である。前回コラムの最後に触れたヒント:「半沢直樹の『XX倍返しだ!』は何に似ているのであろうか?」についてもその中で触れていきたい。これはあくまでも筆者の個人的な見方であり、関係者の意図や企画とは異なっているかもしれないとお断りをしておく。また、筆者は原作を読んでいないので、あくまでもドラマのみを見ての感想である。

まずは「ドラマの構成スタイル」であるが、筆者は基本的に時代劇スタイルを現代ドラマに取り入れたのはないかと考えている。舞台は現代社会の象徴の一つである銀行であり、登場人物のほとんどはスーツ姿である。しかしその内容はむしろ時代劇ドラマで慣れ親しんでいるスタイルなのではないだろうか。つまり半沢直樹は現代風のトレンディ、または欧米スタイルのドラマよりもむしろ「水戸黄門」「大岡越前」「遠山の金さん」などの時代劇に似ているといえるのではないかと考えている。筆者がそう思う特徴をいくつか挙げてみると:

1.勧善懲悪:善と悪役がはっきりしており最後には悪が負ける
2.どんでん返し:主人公は常に不利な状況であるが最後に切り札を出し勝つ
3.親の仇:自分の親の仇を一生かけて取ろうとする
4.忠誠心の高い部下や相棒:劣勢にある半沢を献身的に支える部下の存在
5.等々、時代劇的要因が枚挙にいとまがないほど出てくるのだ。

そして何よりも半沢直樹自身が「現代の侍」として描かれており、それをまた見事な配役のキャスティングが支えているのではなかろうか。


(c)TBS

半沢直樹は、現代社会の会社の中の生き様だけでなく個人としても「侍」として描かれていると思う。何より、半沢は剣の達人である。ドラマの中でも大学の剣道部で同期と数回剣道対戦しでその腕前を披露している。ちなみにその同期の近藤直弼を演じる滝藤賢一の趣味はWikipediaによると和太鼓、殺陣、書道、草笛であり、侍(和)の精神を地でゆく配役となっている。また半沢直樹は、5億円を借り入れた西日本スチールの東田 満(宇梶剛士)とバットや棒を刀に見立て2回にわたり殺陣を演じているのである。

半沢の「睨み」が高視聴率を呼んだ!?

また、本ドラマはキャスティングも見事であり、違和感なくストーリーが入ってくることも見逃せないだろう。半沢直樹、花夫妻は共に芸能人同士の新婚のカップルである堺 雅人(2013/4入籍)と上戸 彩(2012/9 入籍)をキャスティングしており、幸せオーラを感じ取れる。先述した宇梶剛士と藤沢未樹を演じる壇蜜も絶妙に役にマッチしており話題性も高い。


(c)TBS

しかし、特筆すべきは重要な脇を固める和のテイストの配役であろう。特に重要な高い位の役設定には歌舞伎界の血を引く役者を配しているところが見逃せないのである。大阪国税局統括官の黒崎駿一は歌舞伎役者である片岡愛之助が名演をしており、東京中央銀行常務である大和田暁を演じる香川照之も歌舞伎役者である。さらにその上司である東京中央銀行頭取の中野渡謙を演じる北大路欣也の父親は歌舞伎役者である市川右太衛門である。ここまで歌舞伎役者が出てくるのは偶然ではないと筆者は考えている。


(c)TBS

ここで前回のコラムのヒントであるが、筆者は半沢の表情やセリフは実は歌舞伎の「にらみ(睨み、見得)」に似ているのではないかと考えている。

この絵は筆者の要望に応える形で、編集部が半沢直樹の表情と歌舞伎の睨みをイラスト化してもらったものであるが、似ていないだろうか? 歌舞伎では役者が感情の高まりなどを表現するために見得を切るのを「にらみ」と言うそうであり、しばしば使われる。

実は成田屋だけが襲名の口上などの祝儀の席で、この「にらみ」を特別に披露することを許されているそうで2013年正月には新春浅草歌舞伎において、市川海老蔵の睨みを見れば、無病息災とのアナウンスを行ったのである。半沢直樹の睨みも高視聴率をもたらすといいうご利益があったのではと筆者は考えているが、読者の皆様は如何であろう。

実は、このような考察に至ったのには筆者が前職でかつて行ったキャンペーンとの類似性が背景にある。それは、2007年6月より実施したコカ・コーラ ゼロの「ゼロ侍」のキャンペーンである。当時コカ・コーラ ゼロは働く男性をターゲットにゼロカロリーの炭酸という切り口で「日本の男よ、ためらうな」という合言葉でスーツ姿に刀でコカ・コーラ ゼロをちょんまげに見立てた「ゼロ侍」というキャラクターを設定したのである。


日本での発売当時(2007年)のコカ・コーラ ゼロのキービジュアル

ゼロ侍は会社員ではあるものの自分の意見を正々堂々と上司にぶつけてゆき、ためらわずに自分の信じる道を歩んでゆくという設定である。このキャンペーンの成果だけではないだろうが、コカ・コーラ ゼロの日本でのローンチは非常にうまく行き、世界でも最高水準の普及率の達成と“ゼロ”という新しいカテゴリーの成立に成功したのであった。

次回はヒットの要因(3)としてソーシャル性その他の要素を分析したいと考えている。

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