このゴールデンウィーク(GW)は多くの映画が登場して見るものにこと欠かなかったが、いい意味で予想を覆したのが「アナと雪の女王」(文中:アナ雪、ディズニー原題FROZEN)であろう。
そもそもFROZENは米国では昨年11月27日に年末映画として公開し、アナ雪は日本で春休みを狙ったと思われる3月14日の封切である。しかし、その人気は挿入歌とともに衰えを知らず伸び続けているのである。
5月1日時点での興行収入は133億円を超え、GW明けには3D映画の最高傑作と言われる「アバター」の持つ記録(156億円)を塗り替える勢いである。そしてオリコンランキングでサウンドトラックも12週目で初の1位、累計30万枚という異例のヒットとなっている。
筆者は当初この映画にあまり注目していなかった。もともとディズニーの作品はあまり見ることはないし、映画館にも足を運ばず、もっぱら出張中の機内の楽しみとしているのであるが、今回は何かが違った。明らかに流行り方や広がり方が従来の映画とは違うのである。
記事化するからには映画も見なければとGW中にすでに本映画を見ている家族に付き合ってもらって字幕版であるが見てみた(ちなみに家族は何回でも見たいということで喜んで付き合ってくれた)。
今回はこの映画のヒットの裏にある部分、特にコンテンツとしての魅力と構成、そしてインサイトやPR、ソーシャルを活用したマーケティングに着目して考えてみたい。
理想的なリキッド&リンクド・コンテンツであるアナ雪
アナ雪とそのヒットの背景を調べていくうちに、この取り組みがソーシャルメディアが加わった現代において広がりやすい要素を数多く持っていることに気が付いた。
ちなみにリキッド&リンクドに関しては(過去のコラム)を参照していただきたいが、液体(リキッド)のように広がりやすく入れ物によって形が変わり、コアバリューや他のコンテンツとつながっている(リンクド)しているコンテンツのことである。
つまりそれ自身がニュースとしての価値を持ち、消費者が自分ごと化し、ブランドバリューを維持しながらソーシャルメディアなどで拡散されていくものである。
今まではマーケティングの手法として使われることが多かったのであるが、このケースは商品そのものがコンテンツであるのでますますその仮説が適用できると考えられる。では、各要素をそれぞれ検証してみたい。
検索数によるヒットパターンの検証
まず検索数による分析であるが、日・米ともに公開してからの伸びが顕著であることがわかる。「Frozen」(赤)は欧米で公開された11月27日前後、「アナと雪の女王」(青)も公開日である3月14日前後で大きな伸びが見られる。
コンテンツがリキッド&リンクドである一つの兆候として検索が一時的に爆発するだけでなく右肩上がりに伸びてゆくことが考えられるのであるが、まさに世界的なレベルでそれが実現していることが検証されたと言える。
「アナと雪の女王」と「ありのままで」の検索推移
上記は日本における「アナと雪の女王」(青)と挿入歌のタイトルである「ありのままで+Let it Go」(赤)の検索数推移であるが、週末ごとにピークはあるものの、映画名、そして曲名も右肩上がりに伸びていることがわかる。
通常の映画であれば公開時にPR効果などで上がったものが収束するのであるが、右上がりのパターンは昨年の流行語大賞の「半沢直樹(倍返し)」や「今でしょ!」にも見られたような明らかなヒットパターンを再現しているのである。
時代背景にマッチしたインサイト
そもそもコンテンツとしての広がりに関しては「ディズニーのプリンセスもの」や「ミュージカル仕立て」といった“王道”であり、当然ある程度のヒットは予測できるという側面があるだろう。しかし、筆者はそれ以上にこの映画全体、そして特に挿入歌の「Let it go~ありのままで~」は的確に今の時代背景にマッチしたインサイトを捉えていると考えている。
筆者の考えるそのインサイトとは「女性の社会進出」である。これは世界的には2013年3月(日本語版の出版は6月)にフェイスブックのCOOであるシェリル・サンドバーグ氏が執筆した「LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲」というベストセラー本が大きく影響しているのではないかと考えている。
また日本国内においては2013年4月19日安倍総理「成長戦略スピーチ」で述べられている成長戦略の中核である「女性の活躍」が挙げられるのではないであろうか?
安倍首相はその中で「『社会のあらゆる分野で2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%以上とする』という大きな目標があります。先ほど、経済三団体に、『全上場企業において、積極的に役員・管理職に女性を登用していただきたい。まずは、役員に、一人は女性を登用していただきたい』と要請しました」と具体的に述べているのである。
映画をまだ見ていない方のためにここでは詳しくは書かないが、アナ雪の主役は女王とその妹であり「Let it go~ありのままで~」は女王が人に迷惑をかけるとして今まで隠してきた能力を、人里離れた山の中で自由に発揮する瞬間に歌う歌なのである。
「Let it go」とは英語で「解き放つ」という意味を含んでおり、まさに女性がその能力を社会的に解き放つということにつながっているのではなかろうか。
このようなヒットパターンで筆者が考える近い例としては2000年の「世界に一つだけの花」である。
この曲は2003年3月にリリースされるとともに大ヒットしたが、その主だった内容は「No.1にならなくてもいい、もともと特別なOnly one」という歌詞に代表されるだろう。
そしてこの時の時代のインサイトには2002年度より導入された「ゆとり教育」の影響が強いと考えられる。文部科学省が導入した制度であるが目玉は他人との比較で決まる「相対評価(No.1)」から「絶対評価(Only one)」に変更したことである。そこに「世界に一つだけの花」の歌詞が上手くマッチして大ヒットになったということを考えている。
ヒットするプロモーションの裏には多くの場合、時代のインサイトが作用しているケースが多いと昨年ヒットした「半沢直樹」や2011年にヒットした「家政婦のミタ」に関しての分析は筆者のコラム「半沢直樹」のヒットの背景を考えてみたを参照いただきたい。
上記で検証してきたようにアナ雪はヒットするコンテンツとしての各種要件を満たしているのであるが、しかし、今回筆者が特筆すべきはソーシャル時代にマッチしたコンテンツ作りやPR、ソーシャルマーケティングの実施があげられるであろう。
それに関しては次回のコラムで詳しく紹介したいと考えている。
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