クオリティの高いプロダクトが、経営的な成功にもつながる。

江端 サイバーエージェントさんは今、社員数3,500名、売上も今期2,000億円を超える見込みですよね。98年創業ですから、もはやベンチャーといえない存在と思いますが、当初は「インターネットのNo.1カンパニー」とおっしゃられていましたね。
藤田 当社のビジョンは「21世紀を代表する会社を創る」ですが、これはけっこう認知されているのではないでしょうか。創業時にはまだ小さかったインターネット市場も、今や巨大になって多様性が出てきました。「No.1」といってもいろいろな捉え方がありますし、今ではそこにこだわりはないですね。
江端 今年4月にブランドロゴを変更されましたね。色は以前の緑を引き継いで、キャラクターの形も少し似ていますね。そこには何が込められているのでしょうか?
藤田 創業以来、定着してきたものを考え直し、よりクリエイティブな会社に変わろう、という想いです。しかし、Amebaは一般にかなり浸透したので、そのイメージを変えることは難しい。そこで、ロゴを一新することで、クリエイティブな会社になるという意思表明をしようということになったんです。
江端 クリエイティブを具体的に言うと、何でしょう。デザインですか?
藤田 デザインというか、突出した制作物を作ることが、経営的な成功にもつながるという前提が僕の中にあるんです。Apple、Steve Jobsもそうですね。経営がうまいかどうか、というより、プロダクトへの徹底的なこだわりで他にないものを作り上げ、世界的に成功しましたよね。
江端 御社の中では、とくにどの分野になるのですか?
藤田 スマートフォン向けのサービス全般ですね。たとえば、当社の関連企業であるCygamesは、イラストやデザインなど、とてもクオリティの高いゲームを生み出しており、激戦であるネイティブゲームという市場で、非常に伸びています。突出したクリエイティブがあれば、競合環境が厳しい分野でも必ず注目されます。5月にリリースした定額制音楽配信サービスのAWAも、デザインやインタラクションなど、相当こだわって開発しました。
江端 今はゲームでもなんでもスマートフォンの時代になりつつありますが、今後ますますデザインは重要になりそうですね。
藤田 そうですね。それに、スマートフォンではそれに応じたデザイン性が求められると思います。AWAではPC版も作っているのですが、モバイルとはまったく違う構成にしています。スマートフォンは動画や音楽を鑑賞できるプレーヤーでもあり、PCとは異なる、まったく新しいものという認識ですね。
江端 おもしろい見解ですね。スマートフォンはガラケーと違ってグラフィックスの表現もちゃんとできるし、スピードも速くなっているのでいろいろな作り込みができますね。
藤田 スマートフォンはデバイス自体がスタイリッシュだから、変なものを乗せたくないんです。ガラケーの頃はあまり表現もできなくて、こんなにプアなクリエイティブなのに、たくさんの人が使うのか、と驚きました。その分、制作コストはスマートフォンよりも抑えられていましたが。
クリエイティブとテクノロジー。相反するものを両立させることが大切。

江端 今、IoTと盛んにいわれますが、藤田さんはどう思われていますか?
藤田 IoTは当社の企業文化に合わないと思っていて、あまり手を出してないんですよ。
江端 Qrioの西條晋一氏が提唱している、Qrio Smart Lockなどは便利ですよね。スマートフォンが鍵になる。私が使っているのは、家の玄関にカメラを設置して、どこにいてもスマートフォンで玄関の様子が見られるというシステム。月々千円でサービスを受けられます。今ではカメラメーカーはカメラを売って終わりだったのが、毎月千円が入ってくるというビジネスモデルです。
藤田 なるほど。ゲームでいえば、従来はパッケージを出して終わりだったのが、今ではその続きで利益が得られます。それと同じですね。毎月、右肩上がりに伸ばせるのは、今までの感覚とは別のもの。IoTは広がる部分がある。ただ、企業ごとに得意・不得意があると思います。いまや、どの分野においてもITは密接に関わってきている。当社はインターネット総合サービス企業であると言っていますが、それでもインターネットに関わること全てを手がけようというよりは、得意な分野に絞り込んで事業展開しています。幅広い事業内容の中にも、ある程度の秩序があるというか。広告やメディア、あとは新たな事業として立ち上げ中の映像・音楽といったエンターテインメントの分野ですね。ネット企業というと、ネットでやれるものはなんでもやると思われがちですけれどね。
江端 なんでもありといえば、Googleの親会社ですね。Alphabetという会社ができ、検索部門は子会社になりました。あの会社は自動車を作ったり、人を火星に住ませようとか、手を広げすぎてわけがわからない状態になっています。
藤田 Googleぐらいになると規模が違うので真似もできないですが、いろいろ手を広げても、企業体質に合う・合わないというのがあって判断が難しいです。IoTは大変だけどそれが得意な会社もあるし、最先端のメディアで広告を打つのが似合わない会社もありますよね。
江端 精密なモノづくりと流行らせることは相反するものだけど、IoTでは両方やらなくてはいけないのかな。
藤田 まさにAppleが成功したのがそれで、卓越したクリエイティブセンスと技術力という1つの会社でなかなか両立できないものを両立させたことが大きいのだと思います。
江端 しかも、バーチカル・インテグレーションに成功し、利益を独占しましたからね。
藤田 それは戦略的なものだけど、技術力がすごい会社はだいたいクリエイティブセンスに欠けたり、クリエイティブが優れた会社は、技術力に欠けたり。相反するものを両立させたことが、Appleが経営でも成功した要因だと僕は思っています。
江端 サイバーエージェントさんも両立されていますよね。
藤田 いま、そこを頑張ってやっています。ずいぶんレベルが上がったと思いますよ。
ネットサービスでは、黙殺が一番怖い。うまくやるには「プチ炎上」が効果的?

江端 755はこれからどんな感じに動いていくのですか?
藤田 いま大きなリニューアルを試みていまして、今冬に変わります。一般人がより楽しみやすいように作り変えています。他のSNSよりもつぶやくハードルが低く、つぶやきやすいというサービス特性から当社の社員なんかはものすごくハマっていますね。自分の知り合いや周囲の人が使っていると、一気に流行って使いたくなるサービスになるのですが、まだそこまでになっていない状況です。足跡などユーザー同士の回遊性を高める施策など、再考の余地はありますよ。
江端 足跡をどうするかということですか。それは気になりますね。
藤田 足跡を載せる・載せないは、諸刃の剣かなとは思いますが。抵抗があるユーザーもいるとは思います。いずれにしてもそこからいろんな意見が出て、それから使い始めるユーザーもいるのではないでしょうか。
江端 今、うまくいくマーケティングやコンテンツには「プチ炎上」が必要ではないかと思ったりもします。誰もが反応しすぎてもいけないし、反応がなさすぎてもいけない。プチ炎上ぐらいの注目度がちょうどいいかもしれない。
藤田 ネットサービスでは、黙殺されるのが一番怖い。ネットの世界では、評論家といった方々に高く評価されたものは、たいてい消えてしまいますね。評判がよくても、みんなユーザーにすらならない。特に絶賛されているという訳ではないサービスが、みんなが利用して巨額の利益を重ねてきたりする。Amebaも褒められたことがなくて、かえってありがたいなと思っているんです(笑)。
企業の世界観に適応する、サイバーエージェントのサービス。そのマッチングで付加価値の高いプロモーションに。
江端 御社にも、弊社のプロジェクトにいろいろおつきあいしていただいていますね。
藤田 今更になりますが、江端さんはIMJさんのCMOをされている。IMJさんといえば、企業のWEBサイトを作られていますよね。
江端 企業のWEBサイトのあり方が、今、変わってきていますね。WEBサイトはあくまでもベースで、そこで各企業が何をするかということが大事です。企業向けのマーケティングもWebでできるようになってきた。それを自動化するようなエンジンもあり、Webは、昔はカタログでしかなかったのが、今やマーケティングツールとして機能するようになっています。
藤田 役割が変わってきているのですね。
江端 今、ご一緒している案件では、総合代理店さんが大きなプランを作り、サイバーエージェントさんがデジタルの起点として最先端のメディア含めていろいろ展開され、弊社もWebやソーシャルのコンテンツをしっかり企画・制作して、という三者体制での新しい形で進めています。企業のマーケティング活動で、サイバーエージェントさんのサービスを活用する機会は多いと思います。以前はアメブロなどを活用させていただきましたが、他にもどんどん広がるという気がしています。新しい御社のサービスについても、ナショナルクライアントさんはしっかり把握されておられますよ。効果も高いと認識されていると思います。
藤田 そうですね。ただ、我々はサービスサイドにいるので、あまりそういうことを考えず、「いいものを作ってヒットさせる」というところがあります。広告を意識したサービス作りをすると、失敗するような気もしますし。
江端 広告は意識しなくていいと思いますよ。サービスができたらそれに合うクライアントさんをマッチングして、世界観やターゲットが同じところで組んでやったほうがニュース性もあるし、付加価値の高いプロモーションになると思います。
藤田 クライアントさんの姿勢次第ですかね。
江端 そうですね。今後もサイバーエージェントさんとIMJで、クライアントさんへの提案を是非進めていきたいと思います。本日はありがとうございました。
