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2013年のテーマは「ANDの発想の必要性」

複数のメリットを複数の手段でアピールする

2012年は震災による非常事態から平常に日本が戻りつつある中、米国はオバマ大統領が再選を果たし、日本では年末の衆議院議員選挙で政権交代が起こった。2013年になり米国はとりあえず財政の崖を乗り越えて株価が上昇し、日本市場も4日の大発会で300円近く株価が上昇している中でこの記事を執筆している。年初に筆者が考えた2013年のテーマは「ANDの発想の必要性」である。

ちなみにここでいう「ANDの発想」とは、いわゆる一つを取捨選択する「ORの発想」に対して、複数を成立させるという意味である。筆者は2012年のヒット商品の中でもこの「ANDの法則」が多いのではないかと考えている。いくつかの例を示すと、まずは「スマートフォン」。これは電話機ANDインターネット閲覧ANDナビゲーションANDメールANDゲーム端末etc.というように、非常に多様な用途に利用されているものである。従来の携帯電話は通話を重視するために画面が小さかったのだが、スマートフォンは大きな画面でタッチでのスクロール性を重視したためにツイッターやLINEといった縦にスクロールするインターフェイスのサービスの利用に最適である。

キリンメッツコーラはコーラ飲料AND特定保健用食品(特保)であり、コーラ飲料ならではのさわやかさを保ちながら脂肪吸収抑制という機能を実現している。「東京チカラめし」は牛丼(早い、安い、うまい)AND焼き肉の本格感というメリットを消費者に与え、2012年末には全国で130店舗以上を運営する勢力として伸びている。

まだまだ例を示せばきりがない。これはあらゆる分野での共通の考え方になるが、マーケティングに落とし込むと「同時に複数の商品やサービスのメリットをアピールする」「同時に複数のメディアで展開する」といったことになろう。

例えば世間をアッといわせた「ビックロ」はビックカメラANDユニクロで両方の世界観とメリットおよび商品とサービスを訴求して大変流行っている。またソフトバンクとサントリーの「Boss Softbank」CMのコラボでは、「白戸家」AND「宇宙人ジョーンズ」が両方の広告に同時に登場し、それを複数のメディアで展開することにより、非常に大きなインパクトを消費者に与えたといえるのではないだろうか?

デジタル技術と消費者の進化で「両立」が可能に

筆者はこの現象が起きるのはいわゆるコミュニケーションの複雑性の課題が 1)IT特にコミュニケーション技術によって克服できることになったこと、および 2)それを使いこなし、理解する消費者が誕生したということが背景にあると考えている。例えばBOSS Softbankのコラボレーションはすでに浸透しているキャラクターを活用し、それらをマスメディア以外の展開、特にそれぞれのホームページあるいは共同サイトといったオウンドメディア上で展開をすることによって双方の主張をきちんと消費者に理解させることができる構造となっているのではなかろうか。そしてその意図は、誤解されることなくソーシャルメディア上でいち早く拡散してゆくのである。

デジタルネイティブな消費者は各種メディアを消費している際にもスマートフォンを身に着けあるいはパソコンを開いており、気になることがあるとすぐ「検索」をや「書き込み」行う。自社サイトあるいはソーシャルメディア上でその検索や書き込みを受け止める構造があれば、インパクトのあるコミュニケーションで注意を喚起し検索やソーシャルを通じて訴求したい点をきちんと消費者に届けることができるのではないだろうか。

筆者が「ANDの発想」に最初に出会ったのは、スタンフォード大学のMBAプログラムの「ビジョナリー・カンパニー」執筆中のジェームズCコリンズ教授の授業中のことである。のちに同書の中でコリンズ氏は“ビジョナリー・カンパニーは「ORの抑圧」に屈することなく、「ANDの才能」によって、自由にものごとを考える。「ANDの才能」とは、さまざまな側面の両極にあるものを同時に追求する能力である。AかBのどちらかを選ぶのではなく、AとBの両方を手に入れる方法を見つけ出すのだ。”と述べているのであるが、これはあくまでも経営の話であった。しかし、現在それが技術とそれを使用する消費者の両者が揃ったことによって開花しているといえるのではなかろうか?

従来の企業は「取捨選択」をして経営の領域を明確化し、コミュニケーションにおいても媒体を限定しメッセージも絞ってきた。しかし、コミュニケーション技術やその受け手の消費者が大幅に進化したことによって、「両立」することが可能になっており、むしろ消費者はそれを望んでいるのである。筆者が敢えて「ANDの発想」に「必要性」を付け加えたのは、進化した消費者には逆に「ANDの発想」を持っていないとつまらないと映ってしまうかもしれないというリスクを指摘するためでもある。

単純な機能の商品やサービスはもうすでに蔓延しており、やがて価格以外の差別化が難しくなる宿命にあるであろう。一方でANDの発想は難しそうにも思えるのであるが、逆に考えると商品やサービスの組み合わせはいくらでもある。一見全く関係ない、あり得なさそうなものも方法を考えることによって意外な発見になるかもしれないし、そちらのほうが消費者にインパクトを与えられるのではなかろうか。

江端浩人「i(アイ)トレンド」バックナンバー

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