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2015年のマーケティングのトレンドを占う

皆さん、明けましておめでとうございます。昨年は本コラムを含め大変お世話になりました。2015年も引き続きよろしくお願いします。本年1回目は、2014年の振り返りと2015年のデジタルマーケティングの潮流を占ってみたいと思います。
2014年の予想の振り返り

まず、昨年筆者がコラムで2014年に予測していた内容は(1)ビッグデータの活用による「検索」の次の革命的プラットフォーム登場の可能性、(2)CSP(Consumer Side Platform)の登場、(3)CIMO(Chief Information and Marketing Officer)の登場であった。

(1)に関しては、すでに様々なプラットフォーム、例えばキュレーション型のメディアやレコメンデーションの深化が進んでいると言えるのではないだろうか。検索は知りたい情報が頭に浮かんでから入力するものだが、キュレーションメディアはビッグデータを活用し“知りたいであろう情報”を集めてくるものであり、レコメンデーションはユーザー固有の情報とビッグデータを組み合わせ“次に浮かぶだろう疑問”を先取りして表示するものだ。このトレンドは2015年も引き続き、さらに進化すると考えている。

これははっきりとした統計が無いのだが(あればぜひお知らせいただきたい)、ユーザーはネットで取る行動のうちの検索の占める割合が減少する時期に差し掛かってくるのではないかと考える。

(2)のCSP(Consumer Side Platform)に関しては、動きが見えず早すぎて“ハズレ”と言わざるを得ないであろう。しかしデジタルアドテクノロジーの浸透によって、“ターゲットされた広告が多すぎ”と感じているのは筆者だけではないと思うのでここは引き続き注目したい。

そして(3)のCIMO(Chief Information and Marketing Officer)であるが、こちらはハーバード・ビジネス・レビュー2014年10月号で”CMOからCMTへ:マーケティングとデジタルを統合する”という記事が出たことでも象徴されるように、かなり進んだのではないかと感じている。このようなポジションは名前こそ違えど続々と登場しており、また、統一されていなくてもCMO的なポジションとCIO的なポジションがチームを組んでプロジェクトを進行することが多くなっているのではないだろうか。この傾向も2015年にはさらに進んでいくのではないかと考えている。

2015年の3つのマーケティングトレンド

これらを踏まえ、2015年のトレンドには、(1)マーケティング4.0の進行、(2)コンテンツ、インバウンド、MAを集約する次世代オウンドメディアの登場、そして(3)デジタルツールの導入から運用・活用へ、を挙げたい。

(1)すべてを包括する“マーケティング4.0の進行”

筆者が何より注目しているのは9月に行われたワールド・マーケティング・サミットでマーケティングの父フィリップ・コトラー教授が提唱したマーケティング4.0の進化である。以前のコラム 「ad:tech Tokyo/World Marketing Summitから見えてきたマーケティングの新潮流」で詳しい内容は参照いただきたい。要点を整理すると以下のようになる:マーケティングの進化は人間の欲求を5段階に分けたマズローの自己実現理論での欲求段階説に例えたものでまさに的を射ていると考えている。マーケティング1.0~3.0までに関しては長くなるので割愛するが、必要があれば以前のコラムを参照いただきたい。

マーケティング4.0は消費者の自己実現を掴むことでありマズローの第五段階“自己実現の欲求”に該当する。消費者はその商品の開発や改良、告知等発売に至る過程に自ら参画することにより、商品を通じた自己実現を達成できるのである。例としては最近出てきたEC型クラウドファンディングなどは顧客見込者が自ら製品を実現する資金を提供したり、ネスレアンバサダーは商品の普及に消費者が直接関与するモデルとなっている。

そして筆者がなぜマーケティング4.0がすべてを包括すると言っているかという理由は、4.0は単独では成立せず、1.0は絶対必要条件、2.0、3.0に関しても必要条件に近いということが挙げられる。裏を返していうと4.0は1.0、2.0、3.0の上に成り立っており、マーケティング4.0を目指すという目的をあげた場合に、1.0、2.0、3.0もきちんと見ないといけない、あるいは4.0に至る過程で必然的に1.0、2.0、3.0も整備されてゆくということが言える。

すべての企業はマーケティング4.0を目指すことにより現在の自分のマーケティングがどの段階にあり、4.0の実現のためにすべき事は何か、それに必要な資源やツールは何かといったことが考えられるのである。そしてマーケティング4.0の実現のためにはデジタルは必要不可欠である。というよりデジタル技術の進歩が低コストでのマーケティング4.0の実現を可能としたと言えるであろう。ツールやメディア、コンテンツの潮流もあると思うのであるが、すべては4.0を実現するための手段として捉えることが可能になると筆者は考えている。

マーケティング4.0に関しては筆者がこのコラムをきっかけに研究会を立ち上げ、すでに600人を超える参加者に登録いただいている。定期的に会合を開いて情報交換なども行っているのでご興味のある方は是非、こちらからご参加いただきたい。

(2)コンテンツ、インバウンド、MAを集約する次世代オウンドメディアの登場

2つ目は上記で唱えたマーケティング4.0を実現するためにも必要となってくるマーケティングの企業インフラ、すなわちオウンドメディアが注目されるであろうということである。マーケティングの概念として広がりを見せるインバウンドマーケティング、手法として広がりつつあるコンテンツマーケティングやMA (Marketing Automation)、各種メディア(広告媒体、ソーシャル、店頭など)や企業活動(PR、IR、CSRなど)をリアルタイムで包括するできる場はオウンドメディアのみであり、また、コンテンツマーケティングのように外部へ拡散する場合には、それらの活動を集約し結び付けることを行わないと独り歩きして製品や企業に対して誤った印象を植え付けてしまいかねないからである。

この時に重要になってくる考えがスマホファーストおよびSoT (Smartphone of Things)であると考える。消費者の時間や行動はますますスマートフォンに集約されてゆくのでデジタルを含めたすべての活動は顧客層にもよるがまずスマートフォン上でどのようなユーザー体験を提供するかを規定して、それをどのように他のタッチポイントにも広げてゆくかという考え方(スマホファースト)が必要になってくるであろう。

また、世界的大ヒットの様相を呈しているリコーの360度カメラ「THETA」はスマートフォンアプリとの連携が必須になっており(インターネット接続は必須ではない)、IoT(Internet of Things)ならぬSoT (Smartphone of Things)を実現していると考えられる。筆者の考えではIoTはビッグデータを集める手段であるが、マーケティングにはコミュニケーション手段であるスマートフォンと直接つながるほうがはるかに企業にとっての価値が高い。話を戻すと、スマートフォンの上でのユーザー体験を重視した各種マーケティング施策を集約する新しい形のオウンドメディアが登場して普及し始めると筆者は予測している。

(3)データ収集・デジタルツールの導入フェーズから運用・活用フェーズへ

最後に、筆者の個人的な希望でもあるが、進んでほしいのはさらなる収集されたデータとデジタルツールの運用・活用である。というのも、最近様々な企業からデジタルマーケティングのツールを導入した話を聞く際に、よくよく聞くと「活用が十分に出来ていない」と聞くことがあまりに多いからである。また、データは収集しているが上手くビジネスに貢献するために運用・活用されていないというケースも多くみられる。

これまで収集または運用しているものをツール利用で効率化することには意味があると思うが、そもそも運用していないことにツールを導入するようなケースも目につく。また、ツールの導入コストを予算化している企業は多いのであるが、それを効率的に運用する費用は十分に予算化されていないケースが多いのではないだろうか。これでは本末転倒で“ツールを導入しても効果が出ない”といった声が広がる事が懸念される。

導入に際しては“運用”と“活用”は肝である、特にオウンドメディアは“生き物”であり細かく面倒を見る必要がある。データに関しても然りである。筆者は特に本年は世界的な潮流であるBtoB企業のマーケティングオートメーションツールの国内導入が加速すると考えているが、“オートメーション”は決して自動運転ではない。単に導入して終わりであれば企業毎の差別化は難しいであろう。競争に勝つためにはABテストなどを繰り返し、データを絶えず分析し、常に変化する顧客の需要を満たすための運用、そして自社が持つ多くの資産と組み合わせてツールやデータを活用することが鍵になるであろう。

このようなトレンドは他の手法でも見られ、コンテンツマーケティングやネィティブアドも大きな戦略や運用・活用する計画やそれを格納するオウンドメディアのプラットフォームの無いまま乱立され、しかも価格競争により質が低下し、“効果がない”というレッテルが貼られてしまう可能性もある。“悪貨は良貨を駆逐する”という言葉があるが“レベルの低いコンテンツマーケティング、数だけ多いネィティブアドやプラットフォーム化していないオウンドメディア運用、事業推進のために活用されないデータ”などが出てくることは業界全体の風評を損なってしまう可能性がある。

多くの事業者がこの業界に参入することは活性化につながり良いことではあるが、過剰な価格競争が発生する可能性もあり、品質なき価格競争はモラルハザードを誘発し、誰かがどこかで損をする“ババ抜き”状態を引き起こしかねない。

このように未来のトレンドを占っているのであるが最近面白い現象が起こっているので紹介したい。それはTwitterなどで筆者の2年近く前の記事「世界的ブームを起こす秘訣!?ソーシャル先行型コンテンツの広がり方」が“良記事”として紹介されていることである。この速い世の中で2年前のものは通用しないものも多いが、ポイントを押さえた内容は長く通用するということであろう。

他にも動画コンテンツマーケティングやテレビメディアのWebとの融合などトレンドが挙げられるが、それらもマーケティング4.0をどのように実現するかという議論の範疇に収まるのではないかと考えている。

いずれにせよ世の中は非常に速いスピードで進んでおり、2015年もさらに加速することが予想される。価格競争で荒らされることなく業界が拡大することを願うばかりである。

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