先週は非常に示唆に富む2つのイベントを体験することができた。1つ目は”MOBILE WORLD CAPITAL” を掲げている、スペインのバルセロナで3月2~5日に行われたMobile World Congress 2015(MWC2015)、もうひとつは東京の虎ノ門ヒルズで6日に行われたSENSORS IGNITION 2015だ。この2つのイベントを通じ、モバイル通信というインフラが新技術やサービスを育むために必要不可欠であるとともに、すべての機器がインターネットにつながるIoT(Internet of Things)の将来性、とりわけ消費者サービスに関してはスマートフォン経由(SoT: Smartphone of Things)が主流になるのではないかという仮説を得るに至った。

MWC2015会場に掲示されている看板

3月6日に行われたSENSORS IGNITION 2015
来るべき5Gの世を示唆していたMWC 2015
MWCは存在は知っていたものの参加するのは初めて。世界中から10万人近くのモバイル関係者を集めるイベントの規模は相当なもので、内容も素晴らしいものだった。会場も広く全てのブースを回るのに1日ではとても足りず、講演やパネルも有用なものが多数あったので、その中のごく一部を紹介したい。
登壇者の中にはFacebookの創業者でCEOのマーク・ザッカーバーグも含まれ、今後モバイルの発展のために業界が多大な投資を実施することに関して大いなる期待と感謝を述べていた。一方でキャリア側はFacebookが無料通話アプリであるWhat’sAppを買収したことによる警戒感を示しており、そこには微妙なバランスがうかがえた。しかし、今後5G LTEなどの大規模通信は通話よりデータ通信の利用がメインになることから、通信網を整備するための投資を行うためにもデータ通信をマネタイズするビジネスモデルの早期確立が望まれるところである。
規格に強い欧州勢、韓国は2018年に5Gオリンピックを目指し、日本もTokyo 2020の5G化を準備
いまさら説明するまでもないかもしれないが、モバイル通信の運営や整備は各国のキャリアが行う事業である。一方、Facebookなどに見られるように今やサービスは世界的な規模で展開されている。今後世界中で5Gのような品質とスピードの通信が普及するためには各国が通信の規格などを統一する必要があるが、これはなかなか容易ではないのはご想像の通り。しかしこの取り組みは特に欧州統合(EU)の取り組みを進めてきたヨーロッパが先行していると筆者は考えており、実際に各国のキャリアからはそのような発言が多かった。上記はキャリア(TELCO)と通信規格の整備(Regulation)はマーケットの現状を見なければいけないというスライドであるが、今後も規格面では経済圏内の統一必然性が強いヨーロッパ勢がリードしてゆく構図が見られそうだ。
一方で、高速通信の整備はアジアでのオリンピックを契機に飛躍的に発展しそうだ。上記の2つのスライドはKorea Telecom(KT)の黄昌圭(ファン・チャンギュ)会長が行ったプレゼンテーションより抜粋したものであるが、2018年の平昌(ピョンチャン)オリンピックでは韓国は5G体験を提供すると約束したのである。また、「無人自動車が周辺環境を把握して判断するには1秒当たり1ギガバイトの情報を処理できなくてはならない」として自動車の自動運転を始めとするIoT (Internet of Things)化に関しては5Gのインフラが不可欠とした。さらに現地時間の3月1日にはNTTドコモ、中国チャイナモバイルと韓国KTが5G技術開発協力推進に合意したと発表しており、2020年の東京オリンピックに向けて5Gのインフラやサービスがアジアを中心に発達してくるのではないかと期待が高まる。
日産のゴーン氏も発表 会場の随所に展示されていたコンセプトカー
先のKT黄会長が述べたように、次世代の自動車に通信技術の進歩は不可欠であり、業界を代表する形で日産自動車のカルロス・ゴーン社長が登壇した。(下の写真)
ゴーン社長は通信技術の発展により数年後に渋滞時の運転や高速運転、その後に車線変更、その他の複雑な運転ができるようになるという見方を示して、通信業界に大きな期待を寄せた。また、インタビュアーからの質問で「アップルの電気自動車参入」に関しては「電気自動車の認知向上につながる」として歓迎する意向を示した。この話を裏付けるように各社キャリアのブースには随所に自動車が展示されていた。この業界も通信技術の向上とインターネット接続によって様変わりする可能性を示すものとなったと言えるのではなかろうか。

技術による近未来の可能性を示唆したSENSORS IGNITION 2015
今まで紹介したバルセロナでのMWCの大きなテーマは「世界的な通信の発展と規制」であった、その大きな流れを受けて帰国した翌日に参加した日本テレビ主催で番組SENSORSと連動したSENSORS IGNITION 2015 (以下SI2015)はその発展する世界の潮流の中で日本の置かれている状況、特にIoT技術や技術と融合したコンテンツの状況を見ることができてとても有意義な体験だった。また、会場はとても活気にあふれており、新しい技術の可能性を感じられるイベントであった。
以下はイベントのホームページより
「SENSORS」はエンターテインメント領域を中心にテクノロジーの進化で生み出される様々なイノベーションを“発掘”“紹介”ときには“コラボレーション”していくことでその進化を促進するプロジェクトです。「SENSORS」は、テクノロジー×エンターテインメントの未来に関心のある皆様が、様々な分野で革新的なイノベーションに挑戦するうえでの「発火装置=IGNITION」になりたいという思いから、WEB・TV・リアルイベントを連携させた交流の場「SENSORS IGNITION 2015」を開催いたします。日
日本の強みは技術の実用化とユーザーインターフェィスか

SI2015は展示と講演会、交流会より構成されていたが展示ブースではユーザーが実際にコンテンツを体験できるコーナーが多く、写真で見ていただけるように非常に賑わっていた。参加者も聞くだけではなく、実際に体験することによってより未来の一端を垣間見ることができたのではないだろうか?
講演の中で筆者が印象に残ったのが、HEART CATCH代表取締役の西村真里子氏をモデレーターに行われたセッション「日本のものづくりが世界を変える、IoTの未来」であった。登壇者は Cerevo 代表取締役岩佐琢磨氏、 Moff 代表取締役高萩昭範氏、ユカイ工学 CEO 青木俊介氏、ispace Founder & CEO袴田武史氏。筆者がこのセッションに興味を持った理由は、バルセロナのMWCでモバイル通信の将来像を垣間見たときにIoTのあり方はどうなるのかということについて考えていたからである。


セッション全体の話は割愛するが、筆者はこのセッションから、日本の技術とコンテンツの融合は非常に進んでおり、しかもユーザーインターフェイスの部分が素晴らしいと感じた。登壇者もどのようにすればユーザーにテクノロジーを通じてリッチな体験を届けられるのかといった観点でディスカッションをする姿勢が素晴らしかった。特に青木氏が示した日本が世界に勝てるものや、IoTに適した機器やサービスは日本の特徴を上手く捉えたものであると考えているのでご紹介したい。
IoTは直接インターネットにつながるか、スマートフォン経由(SoT)になるか?
上記を踏まえ、筆者が考えるIoT (Internet of Things)のあり方に関して仮説を述べたい。多くのサービスはスマートフォン経由インターネットにつながるSoT (Smartphone of Things)ではないかというものである。
人間は直接データを受け取れるものではなくスクリーンなどの媒体を通じてしか情報を消費できないという根本的な理由に加え、他に3つあると考えている。具体的には1) 通信コスト負担の優位性、 2) 通信技術の進捗のスピード そして 3) 機器・コンテンツ間の競争のスピードの向上、である。
1) に関しては、各機器やサービスが独自にインターネットにつながるよりは家庭にあるwifiやいつも持ち歩く携帯の通信契約に乗っかったほうが独自に契約をするより安くて便利なことが挙げられるだろう。2) に関しては5Gに向けて通信技術の発展のスピードが速く、本業でない利用者としての機器メーカーやサービス業者はそれについてゆく手間やコストだけでもかなりのリソースを食われること、そして3)に関しては今後IoTを目指す企業が多くの機器やサービスをリリースする中で、そもそものコストが高くなるうえ自前でアップデートが増えると機器やサービスの提供・更新スピードが落ち結局はビジネスで負けてしまうことが考えられる。
したがって家や自動車などの高額な耐久消費財以外は直接モバイル軽油つながるよりは、スマートフォンとのインターフェイスをいかに快適にするか、それ経由インターネットにつなげるかというSoTに注目したほうが良いのではないかと考えるのであるがいかがだろうか?
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