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「おせち事件」から「プロ野球参入」まで 2011年のインターネット/マーケティング業界をレビュー

早いもので、本年最後のコラムになる。今回は本コラムの記事に従って2011年のインターネット・マーケティング業界をレビューしてみたいと思う。

まず、年初に起こったのが「前払いクーポン割引サービスおせち事件」である。忘れていらっしゃる方もいるかもしれないので簡単に経緯を記すと、年初に大きなニュースになった本事件はある地元の有名レストランが「おせち料理」の割引クーポンを発行したところ、大量の注文が舞い込み募集ページに載っている商品と見た目の違う商品が配達されたという内容のものである。そして被害者よりその料理の写真がソーシャルメディア公表され、瞬く間に広まっていったために大きな騒ぎとなった。

この事件は急速に拡大するサービスに潜むリスクとソーシャルメディアによる情報拡散の速さを象徴する事件となった。事件の詳細や善後策に関しては筆者のコラムに詳しく書いてあるので是非参照されたい(『「前払いクーポン割引サービス」で“おせち事件”は何故起こったのか?』 『「前払いクーポン割引サービス」で“おせち事件”を繰り返さないために』)。

児童養護施設に対するランドセル寄付の「タイガーマスク運動」はソーシャルメディアを通じて善意が広がってゆく象徴として思い出すことが出来る心温まるものであった。

また、フェイスブックを題材とした映画「ソーシャル・ネットワーク」が日本で公開されてから間もなく、エジプトやチュニジアをはじめとする国でフェイスブック上での呼びかけなどをきっかけとする政変が相次いで起こった。

これらの出来事はソーシャルメディアによる社会インフラの根本的な変化と、個人がメディアになったことによるパワーシフトを象徴するものとなったといえるだろう。このことを裏付けるように米Time誌の2011年の顔には「Protester(抗議する人)」が選ばれたのである。

2011年はITベンチャーの創業者の役割を考える上で象徴的な出来事がいくつか起こった。4月、米グーグルではプロの経営者として招かれたエリック・シュミット氏から創業者のラリー・ペイジ氏に経営権を戻し、アップルのスティーブ・ジョブズ氏も8月に病気によりCEOの座を降りた後10月に病気のために惜しまれながら他界した(『スティーブ・ジョブズの残したものは?アップルの強さについて考える』)。

筆者はスタンフォード留学中にジョブズ氏の話を直に聞く機会に恵まれたが、希有なカリスマ経営者の冥福をお祈りしたい。また日本ではディー・エヌ・エー(DeNA)の創業者である南場智子氏が家族の事情などもあり経営の一線から退いた。ITのベンチャーで創業者のカリスマ性やビジネスとして経営することに関しても考えさせられる一年となったのである。

2011年は日本のソーシャルIT企業の躍進も目覚しい年であった。DeNAによるプロ野球球団の買収は記憶に新しいところであろうが、時代の変化を象徴する大きな出来事ではなかったかと考える。グリーによるOpen Feint買収とそれに伴うグローバルプラットフォーム戦略発表も日本の大手ゲーム会社を携えて注目されるところだろう。サイバーエージェントの広告代理店事業中心からスマートフォンビジネスへの転換を行っており、アメーバ事業の海外展開も進めている。これらの企業はそれぞれモバイルの先駆者としてスマートフォンの世界的普及を睨んでシリコンバレーなどでも活躍していて今後の展開が楽しみである。

コミュニケーションのフレームワーク変化に関しても多くの記事があった。今後のキーワードとしてはソーシャル時代のコンテンツ:Liquid and Linked、ジェネレーションGの登場によりゲーミフィケーションを活用したマーケティングの台頭、入札型広告の登場テレビの地デジへの完全移行に伴う変化、テレビとツイッターなどのクロスメディアの、ソーシャルリスニングの普及やキュレーションマーケティングの可能性などである。一方でソーシャルメディアの普及によって、企業での運用指針や個人として利用するときに悪用されないためのリテラシー向上も重要になってきた。世界的にはウィキリークス、国内でもツイッターでの個人情報リーク問題個人情報が可視化されるカレログというアプリも問題になった。

しかし、筆者が考える国内における2011年の一番の変化は、東日本大震災の影響によって生活者の情報接触態様が変化したことにある。多くの犠牲者が出た未曾有の大惨事に、ご家族や友人知人の方が被害に逢われた皆様にはあらためて心よりお悔やみ申し上げたい。筆者はこの事象は日本国民の心理の変化としては第二次世界大戦の敗戦に匹敵する出来事であると考えているのである。ちなみに本年は震災後の「家族で過ごす」トレンドの表れなのか「おせち料理」や「クリスマスケーキ」の予約が大幅に伸びているそうである。このような一年であったが2012年にはどのような変化が起こっているか楽しみである。

来年も本欄でお会いしましょう。良いお年を!

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